ロビーでコーヒーを飲んだりしているテレビカメラマンや、米中央軍の士官達、ペンタゴン担当記者らと共に一斉に階段を屋上に駆け上り飛来するミサイルを見ようとするのだが、何分待っても来ない。がっかりして部屋に戻ってテレビをつけるとイスラエルのテルアビブとか、ペルシャ湾岸のサウジアラビアの港町ダーラン(多国籍軍の補給拠点)など、他の地点に落ちたことが分かることが多かった。

 弾道ミサイルは発射後しばらく垂直に上昇するからどこに向かうか分からない。このため目標になりそうな地点すべてに警報を出したから空振りが多いのは当然だった。

確実な対策は
離れた場所に一時避難しかない

 Jアラートは落下地点が予測できたのちに屋内避難を呼び掛けることにしているが、それまでに数分間の時間を失えば避難はますます非現実的となる。

 一方、ミサイルが発射されるたび、日本全国、あるいは目標になりそうな基地周辺と大都市に警報を出せば国民は警報慣れし、避難をおこたることになる。湾岸戦争の停戦3日前の1991年2月25日、ダーランの米軍兵舎にミサイルが命中、28人が死亡、97人が負傷した。ミサイル発射警報は出ていたが米兵達も慣れて「めったに当たらない」と軽視して昼食中、偶然食堂にミサイルが飛び込んだのだ。

 北朝鮮が実用化している核弾頭は多分プルトニウムを使う初期型原爆で、長崎に投下されたものと同等と考えられる。その効果は、爆心地から熱線が半径約3キロ(第2度火傷を起こす)、爆風が同約2キロ(大部分の家屋が倒壊)、放射線(1ヵ月以内に死亡)が同約1.8キロに及ぶ。巻き上げられた土砂は強い放射能を帯び、風下50ないし100キロで致死的な放射線量を出す。「サリン」などの化学兵器は2、300メートルの範囲を汚染するが、原爆の被害の及ぶ範囲はまったく違う。

 地下に避難すれば熱、爆風は免れるし、湿った土は中性子、ガンマ線を減衰させるから生存率は高まる。だが、現実には警報を聞いてから核爆発までの間に地下に入れる人は少ない、と考えざるをえない。

 もっとも確実な対策は、朝鮮半島で戦争が起こりそうになれば標的になりそうな場所(軍事基地や大都市中心部)から、ミサイルの誤差(左右よりも前後方向の誤差が大きい)も考え、飛来するコース(関東地方なら西北西から来る)から横方向に5キロ以上離れた場所に、一時的に疎開し、爆発後は風上に逃れることだろう、と考えざるをえない。

(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)