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連載経済小説 運命回廊
【第43回】 2011年6月28日
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村上卓郎

シナリオ

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(2008年8月、香港)

 香港の中心部を縦断している大動脈ネイザンロード、そこでは五輪旗と万国旗が彩られ、アスリートをモデルにした看板が立ち並んで通りを行き交う人々の心を煽っていた。ただでさえ暑い香港の夏だが、今年はさらに熱を帯びているようだ。

 その通りに面した好立地に建つホテル、ホリディインゴールデンマイルのエクゼクティブラウンジで遅い朝食を摂った隆嗣と李傑は、コーヒーを啜りながらフロア奥に鎮座する大きな液晶画面に目を向けていた。

 アメリカのニュース番組は、開会式まであと数日と迫った北京オリンピックの中心となる鳥の巣スタジアムを映した後に、「その一方で」と前置きして、中国の西の果てカシュガルで起きたイスラム過激派によるテロを報じていた。トラックで武装警察の隊列へ突っ込み手投げ弾による特攻で16名の犠牲者が出たことを伝え、中国内少数民族の人権問題に話を進めている。

 「イラクでアメリカ兵が犠牲になればテロへの対決を唱えるくせに、中国で起きれば人権問題だと言いやがる」

 李傑が怒りを露わにする。

 「そうだね」

 隆嗣は何の感慨も湧かせずに応じるが、構わずに李傑が弁じ始めた。

 「世界は白人中心の歴史からまだ逃れられないままでいる。中国が、我々黄色人種が力を蓄えてそれを覆していかなければならない。そうだろう? 隆嗣」

 軽く頷きながらも、隆嗣の脳裏はシナリオの確認に費やされ、話を聞いてはいなかった。

 タクシーに乗ってビクトリア湾を横切る海底トンネルを抜けて対岸の香港島へ渡り、セントラル(中環)にあるフォーチュン銀行に着いたのは正午近くだった。

 今日ばかりは二人とも訪問先に合わせてきちんと背広を着込んでいる。

 ビル内のアトリウムを見下ろすガラス張りのエレベーターに乗り込んで指定階で降り、受付け嬢に案内されて香港の全容を見下ろせる部屋へと通された。

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村上卓郎(むらかみ・たくろう)

1965年生まれ。大学在学中に中国へ留学。会社勤務にて貿易業務と海外駐在を経験。現在は独立して貿易仲介業を営む。初めて書いた『認命(レンミン)――さだめ』が第3回城山三郎経済小説大賞で最終候補に残り、選考委員から絶賛される。


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