ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
岸博幸のクリエイティブ国富論

経産省「抵抗勢力」論の真偽~エネルギー政策転換を阻むものの正体

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第144回】 2011年7月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 一部の新聞で、菅首相が目指す脱原発と再生可能エネルギー普及という方向は正しいのに、電力会社と経産省がそれを妨げる“抵抗勢力”になっている、といった論調が目立つようになっています。それはどこまで本当なのでしょうか。

経産省内の抵抗勢力

 菅首相の延命としか見えない政治的な動きは論外ですが、原発事故がいかに悲惨な事態をもたらすかが明らかになった以上、経済に悪影響を及ぼさないように脱原発を進めるべきであること(“脱原発依存”)と、そのためには再生可能エネルギーの普及が不可欠であること自体は正しいと言えます。

 そして、原発が“大規模・集中的な発電”の中核的な役割を担い、電力会社の巨額の利益と政治・行政・財界・地域での大きな影響力に貢献してきたことを考えると、“脱原発依存”の実現のためには、電力供給体制を“小規模・分散型の発電”に変えて行く必要があります。かつ、そうした体制は、小規模かつ地域のエネルギー源にふさわしい再生可能エネルギーの普及にも貢献します。

 そのためには電力自由化、特に発送電分離が必要になるのですが、それをやられて“大規模・集中”という影響力の源泉を奪われることは、電力会社にとっては死活問題ですので、電力会社が抵抗勢力化するのはある意味で当然のことです。

 それでは、経産省を電力会社と一体化した抵抗勢力と見立てることは正しいでしょうか。結論から言えば、そう簡単に二元論的に割り切ることはできないと思います。それは、経産省の中でも部局によって温度差があるからです。

 経産省内で電力業界や原子力産業を所管するのは資源エネルギー庁(以下「資エ庁」)です。資エ庁の論理としては、所管業界に対する規制が必要であればあるほど、それを所管する資エ庁の組織や予算も大きくできるので、今の電力供給体制(発送電一体、地域独占)の維持と原発の増加は願ったりかなったりとなります。

 かつ、資エ庁と社会的影響力の大きい電力会社との間には、貸し借り関係もたくさんあります。かつての接待(酒、ゴルフなど)、今でも経産官僚が選挙に出る場合の電力会社の応援などが、その典型例ではないでしょうか。

 その結果、資エ庁の行動論理は、どうしても電力業界の既得権益(=自分たちの既得権益)を守ろうという方向に傾きます。若手官僚の中には正しい方向を目指したい人もいますが、現在のように経産省幹部に電力会社擁護派が多い中では、いくら若手が資エ庁内で奮闘しても簡単に圧殺されてしまうのです。

 つまり、経産省内では幹部と資エ庁は明確に抵抗勢力であるということになります。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


岸博幸のクリエイティブ国富論

メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。

「岸博幸のクリエイティブ国富論」

⇒バックナンバー一覧