2020年の東京五輪を控えて、区庁舎などの建て替え、宮下公園の再整備など目玉事業を抱える東京都渋谷区。だが、華々しい計画の裏ではトラブルが続発していた。その実態に迫る。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 大根田康介)
39億円──。渋谷区議会議員の堀切稔仁氏が、今月3日、渋谷区長の長谷部健氏に対して起こした裁判の損害賠償の金額だ。区議が区長を提訴する異常事態。いったい渋谷区で何が起こっているのか。
東日本大震災を契機に、区は1964年竣工の総合庁舎および渋谷公会堂の耐震診断を実施。その結果、老朽化により、震災時の活動拠点としての耐震性が基準値を大きく下回っていたため、補強などの対応が急務となった。
そこで区は庁舎と公会堂の建て替えを決めた。計画では、庁舎と公会堂の敷地の一部に77年間の定期借地権(一定期間、地主から土地を借りて使用する権利)を設定し、民間事業者が分譲マンションを建てて収益を得る。それと引き換えに、事業者が定期借地の権利金と相殺するかたちで新庁舎と新公会堂を無償で建設することで、区の財政負担をゼロにできるという事業スキームだ。
五つの企業グループが企画提案し、2013年に三井不動産グループが事業者に選定された。決め手は三井不の案だけが「隣地の区立小学校や分庁舎の容積移転、土地の付け替えなどがないコンパクトな事業計画だったこと」と、庁舎建設室長の杉浦小枝氏は言う。
その後、15年から建て替えが始まったが、堀切氏が問題にしたのが、不動産鑑定評価における定期借地権の評価額だ。15年2月の不動産鑑定では、権利金が211億円となっている。
だが、堀切氏は「評価額が不当に安い。少なくとも250億円の価値があるはず」と主張。250億円から211億円を引いた39億円の損害を区が生じさせたとして、責任者の区長を訴えたのだ。
堀切氏が根拠とするのは、不動産鑑定書にある「期待利回り2.2%」という数字だ。期待利回りとは、投資額に対する期待収益の割合のことで、これが下がれば定期借地権の権利金も下がる。つまりマンション分譲による利益が増え、三井不の負担が減るのだ。
堀切氏は、「鑑定書作成当時の都心部の住宅用不動産の利回りは4%以上あり、渋谷区なら3%を下回らないはず。企業優遇ではないか」と疑う。
これに対し、杉浦氏は「不動産鑑定士によって期待利回りには差が出るが、低くは見積もっていない」とし、両者の主張は平行線をたどっている。
これから法廷に場を移して争うことになる。