飲食店のIT化の最大のカギは、
「思い切って身をゆだねること」

 出会いのきっかけは、2015年10月に私が代表を務める株式会社トレタが中心となって開催した、第1回目の「FOODIT TOKYO 2015」でした。その会場で「MFクラウド会計」の話を聞いて、大げさではなく「衝撃を受けた」といいます。

前田 「正直、『これまで自分がやってきたことは何だったんだ……』とがく然としました。自分はずっと、伝票や銀行通帳などの書類を見ながら、何日間もかけて売上金額や仕入先との取引データをエクセルに手入力していました。それがシステム同士を連携させることで、すべてのデータが自動で会計ソフトに入っていくんですから。誰にというわけではないのですが、『もっと早く教えてくれよ!』と叫びたい気分でしたね」

飲食店の月次決算の時間を<br />「1ヵ月」から「5日」に短縮したしくみKAGAYA&Melissaグループ・前田瑞樹さん

 最初はトライアルとして、マネーフォワードが無料で提供している個人用の家計簿アプリを使ってみて、銀行やカード会社との取引データが自動的にアプリに取り込まれて、内容ごとに分類されていくのを体験してみたそうです。

前田 「家計簿アプリを使ってみて、すごく便利だなと。同じように店の売上や仕入、銀行口座などのデータが会計ソフトとつながって、自動的に数字が流れていくようになったら、会計処理がすごく楽になるはずだと確信して、導入を決めました」

 会計ソフトと合わせて、以下のようにほかの業務システムのIT化、クラウド化も進めていきました。

レジ……系列全店のレジをクラウド型のPOSレジである「POS+」に変更。売上データの自動取得が可能に。
カード決済……以前より「全東信」を利用。当初、「MFクラウド会計」と連携していなかったが、マネーフォワードに相談をして、連携してもらえるように。
仕入……インフォマートの「BtoBプラットフォーム受発注」を利用するように変更。仕入データの即時集計が可能に。請求書の受け取りも「BtoBプラットフォーム請求書」で。
請求……接待利用の際の掛け売り(ツケ)の請求書は、これまで経理担当者が別途エクセルで作成していたが、「MFクラウド会計」との連携ができる「MFクラウド請求書」を導入。
その他……マイナンバーの管理には「MFクラウドマイナンバー」、労務管理には「SmartHR」、勤怠管理には「KING OF TIME」、予約管理 には「トレタ」を利用。

 お話をうかがった段階では、「MFクラウド会計」と連携ができていないのは従業員の給与計算だけでした。アルバイトの給与については計算が単純なので「MFクラウド給与」の導入を考えているそうですが、正社員の給与は独自のインセンティブの計算方法などがあるため、従来の自作システムとの連携が可能かどうかを検討中とのことでした。

前田 「すべての業務システムを一気に変えてしまったのは、中途半端にやっていたら会計のクラウド化の恩恵を十分に受けられないことがわかっていたからです。クラウド会計は、連携しているすべての取引データを自動で取り込み、自動で仕訳してくれるのが最大のウリです。であるならば、まずはすべての業務システムをつなげることが先決だと考えました」

 飲食店のIT化をスムーズに進め、その恩恵を得るための最大のカギは、「思い切って身をゆだねること」であると私は常々思っています。

 アナログな方法を長年続けてきたお店ほど、従来のやり方を捨てられず、テクノロジーを使って変わることを躊躇します。そのため、一気に変えることを避けて、「まずは会計から」「次にレジを」と少しずつ様子を見ながら変えていこうとします。仕事のやり方を変えたくないあまり、「システムを今の業務に合わせてカスタマイスできないか」という相談も珍しくありません。しかし、中途半端に従来のやり方を残したりすると、導入した新しいシステムもその機能を十分に発揮できず、結局「あまり効果を感じない」「前のやり方のほうがよかった」となってしまい、慣れ親しんでいる従来のやり方に戻したりして改善がうまく進んでいきません。

 IT化の恩恵を最大限に享受したいのであれば、まずはこれまでのやり方にこだわらず、新しい仕組み、新しいサービスに完全に身をゆだねてしまうことが大切なのです。

 前田さんは、もともとご自身で業務システムを自作するだけあって、そうしたIT化の大原則をしっかりと理解し、そして実践をされたのです。