菅直人首相が、全国の停止中の原発再稼働に「ストレステスト」の実施を条件とすることを決断した。また、原発への依存度を段階的に引き下げ、将来は「脱原発社会」を目指すとも表明した。これまでのエネルギー基本計画を白紙撤回し、経済産業省と原子力安全・保安院を分離する考えも示した。これらは、原発再稼働を急ぐ経産省の意向を翻し、エネルギー政策を大転換させるものだ。だが、十分な議論なしに政策の大転換が表明されたことが厳しく批判されている。「菅降ろし」を凌ぎ切った菅首相だが、その政権運営や政治手法に対する自己中心的・独断的との反感は、更に広がった。
しかし筆者は、菅政権の意思決定の混乱を、菅首相個人の資質の問題と考えない。むしろ、民主党政権の「官僚支配」に対抗するための戦略の誤りが混乱の原因となったのだと考える。
民主党は「議題設定権」の
重要性に気付かなかった
「官僚支配」の排除は、日本政治の長年の課題だ。例えば、橋本・小泉政権では「経済財政諮問会議」の設置など、首相官邸機能を強化し、省庁間の利害調整の効率化を図って官僚支配に対抗しようとした。だが官邸主導でも、官僚支配はなかなか抑えられなかった。官僚が、政策立案過程での「議題設定権」を握っていたからだ。
「議題設定」とは、政策の最初のたたき台を作成することだ。「議題設定権」を持てば、自己に有利な争点だけを政策決定過程に持ち込めるので、大きな権力を行使できる。日本政治では、各省庁の官僚が議題を設定した。その結果、官僚に都合の悪い改革案は、各省庁で却下されて、官邸に上ることがなかった。
一方、民主党は野党時代から、首相官邸主導とは別のアプローチを模索した。筆者はある民主党の実力者から、民主党が政権を獲得した時の、政治家と官僚の関係がどうあるべきか提言を求められた。筆者は「官僚を抑えるためには、『議題設定権』を押さえることが重要。それには、官僚組織の独断で行われている、審議会委員の任命権を民主党政権が握り、官僚の設定する『議題』に『お墨付き』を与える『御用学者』を審議会から一掃すること」と提言した(前連載第20回を参照のこと)。