
温度センサー大手の芝浦電子を巡る、台湾の電子部品大手、国巨(ヤゲオ)とミネベアミツミのTOB(株式公開買い付け)合戦が長期化している。ヤゲオは8月1日、芝浦電子の株式取得に必要な当局の外為法の審査期間が延び、TOB期間を再延長したと発表した。実は、TOB合戦の異例の長期化は、ヤゲオにとって誤算といえる。「同意なき買収」を仕掛けたヤゲオがはまった落とし穴とは。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
台湾ヤゲオがTOB期間を再延長
芝浦電子争奪戦は異例の長期戦に
台湾の電子部品大手、国巨(ヤゲオ)は8月1日、温度センサー大手の芝浦電子に実施中のTOB(株式公開買い付け)期間を8月18日まで延長すると発表した。日本の当局からTOBに関する外為法の審査期間が9月1日まで延びるとの通知を受けたため。ヤゲオは「(外為法の)承認を取得できると見込んでいる」としている。芝浦電子を競り合うミネベアミツミもTOB期間を延長した。
芝浦電子のTOB合戦の発端は2024年末。ヤゲオは車やロボットなどに使われる「サーミスタ」と呼ばれる温度センサーの世界シェア1位の芝浦電子に面談の打診などを始めた。25年2月には1株4300円でTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表。芝浦電子の同意は得ておらず、海外企業による日本企業への「同意なき買収」となった。
ホワイトナイトとして名乗りを上げたのがミネベアミツミだ。同社は4月10日にヤゲオの提案を上回る1株4500円でのTOBを提案。貝沼由久代表取締役会長CEO(最高経営責任者)はダイヤモンド編集部のインタビューに不退転の決意を語っている(『ミネベアミツミ会長が芝浦電子のTOB価格引き上げは「積極検討」と明言!買収合戦の相手・台湾大手の出方は「想定内」、不退転の覚悟を語る』参照)。
両者は激しい応酬を繰り広げた。ヤゲオは4月半ばに1株4300円としていたTOB価格を5400円へ引き上げると、ミネベアミツミも5月初旬に5500円に引き上げてTOBを開始。今度はヤゲオがわずか1週間後に6200円に引き上げてTOBを始めた。
ところが、ミネベアミツミに価格で大きな差をつけ、有利な戦況を進めつつあるヤゲオのネックとなったのが、外為法の審査だ。外為法では、海外からの日本への直接投資について、事前審査の対象とし、TOBの場合、期間終了までに承認を得る必要があると定めている。
ヤゲオは2月に外為法に基づく届け出を財務相と経済産業相に提出。3月に審査継続のため一度取り下げ、6月に再度届け出ていた。承認取得への協議が進んでいるとみられていたが、7月15日に外為法の審査が完了せずTOB期間を8月1日まで延長。だが、8月1日までに審査が完了せず、今回再び延長を迫られた。8月1日には金融商品取引法で定められたTOB期間の原則最大60営業日を超過し、異例の長期戦に突入している。
TOB合戦の異例の長期化は、ヤゲオにとって誤算といえる。果敢にも「同意なき買収」に打って出たヤゲオの目算が狂ったのはなぜか。次ページで解説する。