将棋の世界が教える「直観力」を身につける二つの道

拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第24回の講義では、「技術」に焦点を当て、拙著、『なぜ、マネジメントが壁に突き当たるのか』(PHP文庫)において述べたテーマを取り上げよう。

「サイコロ」を振って決断するマネジャー

 今回のテーマは、「将棋の世界が教える『直観力』を身につける二つの道」。このテーマについて語ろう。

 読者は、「直観力」を身につけたいと考えたことはあるだろうか。そう考えたことのある方のために、面白いエピソードを紹介しよう。

 企業の経営者やマネジャー、組織のリーダーは、時折、難しい意思決定に直面して悩み抜き、「サイコロ」でも振って決めたい心境になるときがある。

 実際、難しい意思決定に直面し、サイコロを振ったマネジャーがいた。これは、その実話である。

 ある企業で、熟練のマネジャーの斎藤氏(仮名:以下同)は、極めて重要な商品開発プロジェクトの意思決定に直面した。事前の市場調査も徹底的に行い、会議でも衆知を集めて議論を尽くしたのだが、それでもこの商品開発に踏み切るべきか否か、メンバー全員の意見が定まらない。そして誰よりも、その意思決定の責任者である斎藤マネジャー自身が、決断がつかなかったのである。

 開発費用を考えると大きなリスクを負ったプロジェクトであり、極めて難しい意思決定であった。しかし、それでも意思決定のタイムリミットは来ている。その会議において、どうしても結論を出さなければならない。

 会議の参加メンバーからは、「斎藤さん、決めてください」との声が無言で伝わってくる。メンバーは斎藤マネジャーの力を信頼している。最後は「斎藤マネジャーの直観力に賭けよう」との雰囲気である。

 そうした中、斎藤マネジャーは目をつぶり、しばし黙して考え込んでいたが、ふと目を開けて言った。

「よし、サイコロを振って、決めよう…」

 唖然とするメンバーを尻目に、偶数ならプロジェクトの実施決定、奇数ならプロジェクトの実施見送りと決めて、斎藤マネジャーは意を決したようにサイコロを振った。

 全員が注視するなか、果たしてサイコロは「偶数」と出た。プロジェクトの「実施決定」である。

 その瞬間に、斎藤マネジャーが言った。

「やはり、このプロジェクトの実施は見送ろう」

 さらに唖然とするメンバーを前に、彼は確信を込めて言葉を続けた。

「今、サイコロの目が偶数の『実施決定』を示した瞬間に、心の深くで『いや、違う』との声が聞こえた。自分の直観は、やはりプロジェクトの実施見送りを教えている。自分は、その直観を信じるよ」

 斎藤マネジャーは、自分の直観力を引き出すために、サイコロを振ったのであった。