いざ災害や停電に見舞われたとき、クルマのバッテリーからの電力でご飯を炊き、扇風機で涼み、テレビを見る――。そんな時代がすぐにでも到来しそうだ。

 東日本大震災直後、被災地では長時間の停電を余儀なくされた。ところが、あるクルマのユーザーは難を逃れた。トヨタはミニバン、エスティマハイブリッドのユーザーから「外部電源の供給機能が役立ったという声をもらった」(豊田章男社長)というのだ。

 ハイブリッド車や電気自動車は、モーターを回転させて駆動させているため、大容量のバッテリーを内蔵している。クルマを動かすほどの力があるのだから、バッテリー内の電力を再び外部に供給できれば、かなりの電化製品を稼働させることができる。

 現在、このバッテリーから外部に電源を供給する本格的な機能を持っているのは、トヨタのエスティマハイブリッドだけだ。

 エスティマのシステムは1500ワットの最大出力で、テレビやパソコン、炊飯器やドライヤーなどが利用可能。1500ワット以内なら複数製品の同時利用も可能だ。しかも、ガソリンが満タンなら、最大で2日間、最大出力で連続利用できる。

 これが停電時の被災地で多いに役立ったという。

 そこで、トヨタではこの外部への電源供給システムを、1年後を目処にプリウスに搭載し、その後、他のハイブリッド車にも順次展開していくと発表。7月19日の会見では、豊田章男社長自らが、プリウスに繋がれた扇風機の前に立ってみせた。

 一方、量産型の電気自動車を発売している、三菱自動車と日産もだまっていはいない。

 三菱自動車は電気自動車アイミーブから外部への電源供給システムを今年度中にも商品化する。7月6日の会見では、益子修社長が炊飯器で炊かれたご飯を食べてアピールした。

 さらに日産は、一歩踏み込んだシステムに乗り出す。

 近いうちに電気自動車リーフからの外部電源への供給システムについて発表する予定だが、これはトヨタや三菱のものとは少し方法が異なる。

 トヨタと三菱の外部への供給システムは、クルマから直接家電に繋ぐというもので、災害時や停電時の利用を念頭においている。

 ところが、日産のシステムはクルマから住宅につなぎ、住宅内のコンセントに電源を供給することを目指す。つまりは災害時や停電時の活用だけでなく、日常の電気利用の効率化に主眼を置いている。

 リーフの電池容量は一般家庭の電力需要2日分に相当する。夜間に電気自動車に充電した電力を昼間に利用したり、ソーラー発電の電力を貯めてまた家庭に供給できるようになるのだ。

 東日本大震災を受けて、日産の技術者はこの家庭への給電システムの開発を「前倒しする」と意気込んでいた。

 緊急時の利用にしろ、家庭への供給にしろ、東日本大震災によって自動車各社の外部への電源供給開発競争が一気に加速したのは間違いない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)

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