「媚びる」のは
コーチングではない!

 コーチングアップに似て非なるものがあります。「媚びる」「おべっかを使う」などがその典型的な例です。これらはいずれもコーチングでありません。

 「媚びる」「おべっかを使う」という行為には、お互い信頼を築こうという意思もなければ、敬意もありません。あるのは「下心」です。上司に能力はないと決めつけていたり、上司を意のままに操ろうという心理が働いていたりします。たとえば、職場で上司に接するときには、愛想よく応対したり、ほめたりするけれど、裏に回ると舌をべーっと出して、「あの上司、バカで、もう何にもわかっちゃいねえ」と言うような場合です。

 こうした、組織としての成果というよりは、自分だけがいい子になろう、自分の評価を上げようと思って上司に接するような姿勢は、コーチングアップとはまったく別のものなのです。

 人間には長所もあれば短所もあります。上司の良いところに着眼し、上司のこれまで歩んできた道に対して敬意を持って接するという姿勢を持っていなければ、表面的に口先で上司を操縦しようと思ってもうまくいかないものです。

 人間どうし、お互いにリスペクト、敬意を持って接するのは当然のことです。目下の人が目上の人に、部下が上司に、先輩が後輩に、あるいは年少の上司が年長の部下と接するときには、とりわけ敬意を持って接することが大切です。つまり、上司がこれまでの人生のなかで経験してきたこと、学んできたこと、つかんできたこと、そうしたことを謙虚に学ぶ姿勢を持つということです。

 その人が歩んできた道を否定するのではなく、相手の経験を尊重し、大切にして、そこから何かを学んでいこうという姿勢で接するときに、自然に敬意はわき上がってくるものではないかと思います。

 「ダメ上司」というレッテルを貼って否定してしまえば、その瞬間、楽になるかもしれませんが、それではあなたにとって何のプラスにもなりません。本連載の第2回でも書きましたが、上司を心のなかで見下していたり、何を言ってもムダだからとあきらめてしまったりしていると、必ず成長の限界がやってきてしまいます。伸びていく人は、あらゆる人から学んでいくことができる人なのではないでしょうか。

 自分とは異なる人生を歩んできた人からは、必ず何かを学ぶことができるものです。そうした相手から何かを学び取る姿勢が自然と敬意になるのではないかと思います。

 「リスペクト」というのは、再び見るという意味で、「リ」が再び、「スペクト」が見るという意味を持っています。ですから、自分の過去を再び見る、振り返ることはもちろんのこと、相手の過去をよく見る、振り返る、そこから何かを学ぼうという気持ちで見る、そうした姿勢が大切なのです。

 あなたの上司の良いところを、強み、持ち味を、もう一度、虚心淡懐に見つめ直してみてください。