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他社事例ばかりを気にする
企業が後を絶たない理由

内山悟志 [ITR代表取締役/プリンシパル・アナリスト]
【第70回】 2017年7月14日
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企業では、業務改革やシステム導入などの新しい取組みを企画する際に事例情報を求めることが多い。しかし、当該案件に合致する事例を探すことは容易ではないし、同様の取り組みを行った企業があったとしても、それが自社にそのまま当てはまることは稀である。

事例研究の目的とその功罪

 欧米においてもケーススタディは有効な調査研究手法の1つであると認識されているが、前例主義的な観点から事例を求めるのは国内企業の特徴といえる。

 ITRはリサーチ会社であるため、顧客から事例の紹介を求められることが多い。事例研究自体は無駄なことではないが、重要なのはその目的と活用方法である。事例研究の主な目的は、他者の取り組み状況や実態について知ることで自社のポジションを確認したり、自社が取り組むことの妥当性を確認したりする、成功した企業の「ベストプラクティス」を知ることでそれを真似る、他社が同様の取り組みで苦労した点、失敗の要因などを知ることでリスクを軽減するといったことが挙げられる。

 一般に、ユーザー企業がシステム導入や業務改革などを企画する際に、事例を求める理由は大きく2つあり、1つは上司(決裁者など)が求めるからであり、もう1つは自分自身が何かのヒントを得たいからである。

 前者の場合は、主に前例主義的な観点からの要求に対して裏付けを示すことを目的としている。後者の場合は、未経験な領域への挑戦であるため先行者の道程から教訓を得ることが目的となるだろう。しかし、いずれの場合においても当該案件に合致する事例を探すことは容易ではないし、同様の取り組みを行った企業があったとしても、そこでの経験が自社にそのまま当てはまるとは限らない。また、失敗事例も頻繁に求められ、確かにそこからは有益な示唆を得ることが期待されるが、失敗事例を公表する企業は稀であり、なかなか見つからない。

 そもそも社会科学において事例研究は、全ての事象を網羅することができない場合に1つまたは複数の事例を取り上げて、推論(仮説)が当てはまっているか、傾向が確認できるかを検証するために行われるものである。したがって、推論(仮説)を持たずに闇雲に事例を探しても得るものは少ないと考えるべきだ。

 また、事例研究は、一般的に客観性・再現可能性・普遍性などの科学性が疑問視されることが少なくない。成功している事例ばかりを示せば取り組みを肯定できるし、失敗事例ばかりを示せば否定的な主張を後押しする。事例研究は自己主導型の研究であるともいわれ、いかに主観的な部分をなくすかが重要となる。ITベンダーが紹介する導入事例などを参照する際には、そこには一定の独善性が含まれていることを承知の上で参考にしなければならない。

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内山悟志 [ITR代表取締役/プリンシパル・アナリスト]

うちやま・さとし/大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストととして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は大手ユーザー企業のIT戦略立案・実行のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。


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