コンサルタントを雇い、彼らのアドバイスをもとに経営改善をすることは一般化している。では、どのような場合にその価値を最大化できるのか。ワイン業界での調査を通して、2つの提言が示される。


 コンサルティングは多くの業界に浸透している。だが、コンサルタントの利用については依然として意見が分かれる

 企業はなぜ、金で雇った助っ人に企業秘密を漏らそうとするのか。これらの「傭兵」がなぜ、社員よりも優れた活動を行うというのか。コンサルタントというのは「時間を教えるために人の時計を借り」、その特権に対して金を請求する人にすぎない、と見なす従業員も少なくない。

 私は、コンサルタントを雇うことの影響を見極め、どのような場合にコンサルタントが最大の価値をもたらすかをつきとめるために、ワイン業界に着目した

 3分の2以上のワイナリーが、ワインの品質向上を目的としてコンサルタントを雇っている。あるワイン造りのコンサルタントが言うように、「私の仕事は、クライアントのワインを良くすること。ワインやワイナリーがどんなにひどいものでも、与えられた条件の下で最善を尽くすのみです」。その根底にある理由はストレートだ――良いワインほど高値で売れる。私は、合計311の仏ボルドーのワイナリーを10年間にわたって調査した。ワインの品質は、『ワイン・スペクテイター』誌と、ワイン評論家ロバート・パーカーの『ワイン・アドボケイト』誌によるテイスティング・スコアを用いて評価した。

 今回の研究では、品質の平均と分散に注目した。概して、コンサルタントの力を借りて作られたワインは、品質の評価が高かった。同時に、際だった評価は少なかった。したがって、コンサルタントの利用は、万人受けのする、しかしずば抜けてはいないワインの評価と相関していた。素晴らしくもなければ、ひどくもない、というわけだ。

 傑出しているワイナリーの多くは、コンサルタントを雇わず、内部の人材のみを使っていた。たとえば、ペトリュスのオーナーは、ワイン造りのコンサルタントに頼ったことが一度もない。1963年から2007年まで、ペトリュスのワインは社内の醸造家、ジャン=クロード・ベルエによって造られていた。2007年に彼が退いた後は、息子のオリヴィエが醸造長に就任した。

 コンサルタントの世界で通用するのは知識であり、その源泉は主に2つある。教育と訓練を通じて得られた専門性、そして、クライアントとの仕事を通して積み重ねた経験だ。重要なのは、コンサルタントの存在理由が、クライアントに普通の知識を提供することではないことだ。結果を出すのに最も効率のよいベストプラクティスを展開して、それをクライアントの業績向上に活用することである。

 ワイン業界も例外ではない。あるワイン造りのコンサルタントは、次のように説明している。「私は、ここボルドーで過去に素晴らしい収穫が得られた記録を調べ、共通点を探しました。その結果、そのような年には、日照が多く、生産高が低めであったことがわかりました。非常に単純明快です。そこで、こう考えました。よし、私たちが取り組める要素は2つある。生産高を抑えることと、より熟したブドウの収穫を目指すことだ、と」

 ベストプラクティスは、個別の企業が実践している方法よりも検証がなされているため、非常に低い業績しか出ないという可能性を小さくしてくれる。一方で、傑出した業績には独自性が必要条件だ。ベストプラクティスは、個別の企業よりも独自性が低いため、非常に高い業績を上げる可能性までも小さくするのだ。

 さらに、ワイナリーが有するリソースの品質によって、コンサルタントの価値が大きく変わってくることがわかった。ボルドーのワイン業界では、「テロワール」(ブドウの生育環境)が主要なリソースだ。私の調査からは、テロワールの質が低いワイナリーのほうが、テロワールの質が高いワイナリーよりも、ワイン造りのコンサルタントの助力から恩恵を得られることが明らかになった。

 たとえば、小規模生産で個性的ないわゆる「ガレージワイン」をつくるワイナリーは、テロワールの質が低い土地にある。彼らは、最も進歩的なワイン造りのベストプラクティスを用いて、ワインを少量生産する(このため「ガレージワイン」と呼ばれる)。コンサルタントの助力がなければ、ワイン評論家のロバート・パーカーから「傑出した生産者」とは見なされなかったであろうワイナリーもある。

 私の調査ではワイン造りのコンサルタントにのみ注目したものの、ワイン造りのコンサルタントとその他の業界のコンサルタントとの間には、多くの類似点がある。ワイン造りのコンサルタントは、その他のコンサルタントと同様、基本的に「知識労働者」であり、知識を創造して広める。このため、今回の調査は、コンサルタントの雇用を検討する企業に対して、次の2点の重要な示唆を与えるものだ。