「自分の人生観・仕事観を変えた1冊」を「今月の主筆」に登場した経営者に聞く夏の読書企画。今回は、読書家の経営者としても有名なライフネット生命創業者の出口治明氏に聞いた。

すべてのビジネスパーソンの羅針盤になる

ライフネット生命創業者 出口治明 Photo by Yoshihisa Wada

 いかなるビジネスであれ、ビジネスは人間と社会を相手に行うものである。そうであれば、僕は、人間と人間が創り出した社会の本質を理解することがビジネスにとっては何よりも大切だ、と思っている。

 その意味で、小坂井敏晶著『社会心理学講義』(筑摩書房刊)は、ここ数年の間に出版された本の中では、最高のビジネス書と呼んで差支えがあるまい。そして『答えのない世界を生きる』(祥伝社刊)は、その著者の最新作である。著者の作品は、何を読んでも深く考えさせられるが、本書も例外ではなかった。知的刺激に満ち満ちた1冊である。

 二部構成をとっているが、第一部は「考えるための道しるべ」。「知識とは何か」「自分の頭で考えるために」「文科系学問は役に立つのか」という3章から成る。

 戦後の日本はアメリカに追いつき追い越すことが目標だったが、課題先進国となった現在ではどこにも目標とすべき国はない。これからの日本は、自分の頭で考えて道を切り開いていく以外に方法はない。

 ところが、現在の日本は自分の頭で原点に遡って考えることが、からきしダメだ。考えるという営為について、小坂井節が次々に炸裂する。「答えよりも問いが大切だ」、「型こそが自由な思考を可能にする」ので「古典から型を学ぶ」、「正しい世界と闘う」などなど。僕たちが普段依拠している常識が、いかに脆弱なものであるかが目の前に明かされる。ここから考える旅が始まるのだ。

 既存のビジネスを根底から考え直す場合など、著者の思考の在り方はとても参考になるだろう。

 第二部は「学問と実存」。稀有な知性の半生がここで明らかにされる。思想と思想家の人生は不即不離だ。「力尽きるまで思想の戦士でいたい」という人物がどのようにして誕生したのか。常に、事実は小説より奇なのだ。

 考え抜くということが、どういうことなのか、混迷の時代をこれから生き抜いていかなければならないすべてのビジネスパーソンに、格好の羅針盤として本書をお勧めしたい。