主要紙の社説などを見ると、まるで判を押したように「急激な円高を是正し、景気の回復を図らねばならない」といった論調が並んでいる。むろん、経団連を始めとする財界主流も同じ見解だ。安住財務相はG7後(9日夜)の記者会見で、大幅な円高について「日本の景気に冷水を浴びせかねない。動向を注視し、投機的な動きには断固たる措置を取る」と述べた(9月10日付、日本経済新聞夕刊)。

 このように現状では、メディアも財界も政界もこぞって円高是正を叫んでいるように見える。これは本当に正しいのだろうか。「全員が同じことを叫ぶ時は、まず疑ってみよ」という言葉もある。円高問題を整理してみよう。

自国通貨の価値が上がる
円高は長期的には好ましい

 白地に絵を描くつもりで原点に戻って考えてみれば、円高が長期的には好ましいことは明らかである。自国通貨が高くなる(価値が上がる)ことを、嫌がる人はどこにもいない。財布に入っている1万円札の価値が金貨1枚に相当するとしよう。これが円高になって金貨2枚に交換できるとしたら、一体、誰が嫌がるだろうか。

 では、なぜ、世間は円高を忌避するのだろう。それは、20世紀後半の高度成長期と同じように、輸出製造業の目で為替を見ているからだ。わが国の比較優位性のある産業であり生産性の高い輸出製造業が円高で打撃を受ければ、景気の回復に後れが生じると言う、ある意味、単純な認識論がその根底にある。

 確かに、現在のわが国経済の局面では、短視眼的に考えると、円安の方が景気回復には(若干の)プラスであるようにも思えるが、事はそう単純ではないのではないか。

 QE2(FRBによる量的金融緩和第2弾)の影響もあって世界的に一次産品の価格が急騰している。そうであれば、円高がもたらす交易条件有利化の側面を軽視するわけにはいかない。ましてやわが国では東日本大震災で原子力発電に対する不安感が急速に高まり、ここ数年の間は火力発電にかなりの部分を頼らざるを得ない状況にある。言うまでもなく、電力は輸出製造業を含めた産業のコメであって、電気料金のコストは、輸出産業の競争力を左右する大きな要素である。

 加えて、現在の円高は購買力平価で見れば、まだまだ円安であるとの指摘もある。かつての最高値である95年の79円台の円高は、購買力平価で換算すると60円台に相当するという試算もあるようだ。

 このように考えれば、現在の水準の円高(9月12日正午現在77.52円)が、わが国経済(例えば向こう1~2年間の実質GDP)に与える具体的な影響について、プラス面とマイナス面をまずは冷静に数字で検証・比較する必要がある。