パリの三ツ星店が採用する日本酒「醸し人九平次」の逆張り戦略醸し人九平次 純米大吟醸「別誂」(べつあつらえ、写真提供:萬乗醸造)

日本酒の名品『醸し人九平次』を造る萬乗醸造から目が離せない。自社の田んぼの取得や、フランスでの米とワイン造りなど、新たな挑戦を次々に行なっている。ワインの本場・フランスの三ツ星料理店でも認められたモノづくりのこだわりと、“新しい日本酒”を目指すワケを、萬乗醸造15代目の久野九平治社長に聞いた。(ダイヤモンドZAi編集部 堀口貴司)

大手の下請けだった酒蔵が一転
フランス進出と限定品の少量生産へ

 国酒といわれる日本酒だが、国内での消費量はピークの3分の1まで減少。一方で吟醸酒、純米酒など「特定名称酒」の消費と、海外への輸出は増えている。『獺祭』が売れていると聞けば、ピンとくる人も多いだろう。海外でも和食人気を背景に、月桂冠などの大手に混じって小さな酒蔵のブランド酒が奮闘している。

 その中で異彩を放つのが、『醸し人九平次』(萬乗醸造)だ。ワインを思わせる瓶のデザインや、『human』『黒田庄に生まれて、』など印象的な名前をとっかかりに、白ワインのような繊細な飲み口と味わいで人気を博している。しかも、生産量が年間約15万本と人気の割に少なく、地元の愛知県・名古屋市でも購入に本数制限がかかるほどだ。

 萬乗醸造の歴史は古く、創業は1647年。戦後から1980年代までは安価な自社製品や、大手メーカーの日本酒を下請けで造っていたが、父親が病に倒れ、久野九平治社長が91年に家業に戻ると、「機械による大量生産」から「手づくりにこだわる少量生産」に路線を変えた。

 その後、萬乗醸造がさらに飛躍したきっかけは「フランス進出」だった。2006年以降にパリの三ツ星レストランなどが相次いで『醸し人九平次』を採用し、評判が一層高まった。13年にはフランスのワイン醸造所に社員を派遣して研修。それと同時にフランスで米作りを行なうとともに、ワインの本場でブドウ畑を取得して、ワイン造りにも挑戦している。その傍ら、日本でも田んぼを買って米作りを始めた。

 日本酒の海外展開が増える中、萬乗醸造にとりわけ注目が集まる理由は、“徹底した手づくりへのこだわり”と、小規模の蔵元ながら先進的な手を打ち出す“経営感覚”のバランスの良さにある。