2011年8月の盆明けに円ドル相場が史上最高値を更新していたころ、「政府・日銀による為替介入」が頻繁に取り沙汰されていた。それが個人の生活にどういう意義を持つのか、当時、富士の裾野に広がる工場群で汗と油にまみれて駆けずり回っていた筆者には想像が及ばなかった。従業員みんなで富士のお山を振り仰ぎ、「向こう側の話だろうねぇ」と呟いていた。

 知っていることといえば、為替介入する「政府」というのは財務省だということ。為替市場には財務省と日銀が協調して介入するのではなく、財務省の指示によって日銀が売買を実施する。その日銀はジャスダック市場に上場しているので(証券コード8301)、他の上場企業と同様、株の売買を行なえる。ただし、上場しているのは出資証券なので、日銀の有価証券報告書はない。筆者が知っているのは、その程度だ。

 日本銀行の株が上場されているのは、あまり知られていない。株価を見ると2008年以降、長期低落傾向にある。ニッポンの上場企業3600社の中では最も頻繁にメディアに登場する法人(日銀法6条)でありながら、投資家にとって魅力ある銘柄ではないようだ。

大山鳴動した
三菱重工と日立の経営統合

 2011年の夏、日銀以上に話題をさらったのは、三菱重工業だろう。日立製作所のように家電製品を扱っているわけではないので、消費者には馴染みのない企業だ。それでも、三菱UFJフィナンシャル-グループ(FG)、三菱商事と並んで「御三家」と称されるほどなので、知らない人はいない(以下では略称を使用する)。

 日立との経営統合の話は、どうやら大山鳴動しただけでフェイド-アウトしてしまったようだ。三菱重工は、個人的に縁もゆかりもない企業なので本連載で扱うのは気が引けるのだが、少々興味深い分析結果があるのでその一端を紹介しよう。

 要は、「財務のチカラ」で、三菱重工と日立を比べてみようという話である。前回のコラムまでで「為替レート感応度分析」を紹介した。その応用として今回は「日経平均株価の感応度分析」というものを用い、両社の財務パワーを検証してみようと思い立った次第である。

 財務の一事で万事を判断できるほど、企業活動の底が浅くないことは承知している。しかし、外部の者が利用できる情報は、有価証券報告書が中心なのだから、そこからいくつかの「一事」をピックアップしてみるのは、分析する側の腕試しでもある。

三菱重工も免れなかった
リーマン-ショックの影響

 最初に三菱重工について、本連載ではお馴染みのSCP分析(Sale-Cost-Profit:タカダ式操業度分析)を〔図表 1〕に掲げる。

 08/9(08年9月期)に起きたリーマン-ショックの影響で、三菱重工も2009年以降、黒色の「実際売上高」が下降線を描いている。その上にある赤色の曲線を「最大操業度売上高」といい、黒色の実際売上高がそこに到達した場合、ミクロ経済学の「利潤最大化条件」を実現することができる。