アメリカの状況について、この連載の第5回に書いた。そこでは、「将来への方向付けが定まらない」と述べた。これは、その時点でわかっていた08年第3四半期(7-9月)までのGDP統計と国際収支統計から読み取れる姿を見ての結論であった。金融危機は進展していたものの、それが実体経済に与える影響は、この期間までは、住宅投資と耐久消費財(自動車)の減少に限定されたものだったのである。

 ところが、その後に発表された統計では、だいぶ事情が変わってきた。実体経済に与える影響が広範に広がり、とくに貿易面での調整が顕在化した。これが日本や中国の対米輸出に大きな影響を与えたのである。その状況について、以下に述べよう。

08年第4四半期:
輸入の急減

 まず、GDP統計を見よう。【表1】に示すように、08年第4四半期(10-12月)に、アメリカの実質GDPは、対前期比でマイナス3.8%(季節調整済み、年率)と、大きな落ち込みを示した。

【表1】アメリカの実質GDPとその構成比の対前期成長率(季調済み、年率%)
世界経済危機のカギを握る「アメリカの経常赤字」は、1年以内にどこまで縮小するか?

 実質個人消費支出は、08年第3四半期からマイナス成長となっていたが、第4四半期にもマイナス成長が続いた。自動車を中心とする耐久財は、マイナス22.4%と、第3四半期より大きな落ち込みとなった。固定資本形成や住宅投資の落ち込みも第3四半期より拡大し、その結果、投資支出全体の伸びもマイナスになった。

 第3四半期と比べてとりわけ大きな変化を示したのが、貿易動向である。まず、輸出の伸びは、マイナス19.7%となった。とりわけ財の落ち込みが激しい。

 日本の立場から重要なのは、輸入の動向だ。アメリカの実質輸入額は07年第4四半期以降継続してマイナスを続けていたのだが、08年第4四半期には、マイナス15.7%というきわめて大きな落ち込みになった。財の輸入の落ち込みは、18.8%となった。

貿易収支の動向

 つぎに、貿易相手別の貿易収支を見ると、【表2】のとおりだ。

【表2】2008年におけるアメリカの貿易動向
世界経済危機のカギを握る「アメリカの経常赤字」は、1年以内にどこまで縮小するか?

 日本からの輸入は、08年の4月以降減少傾向を続けていた(ただし、10月は例外)。これは、自動車を中心とするものである。そしてこれは、すでに見たGDP統計における耐久消費財の落ち込みに対応したものだ。そして、11月に前月比約12%と、急激な落ち込みを見せた。

 中国からの輸入は、08年2、3月には落ち込んだが、その後回復した。四半期別計数でみると、08年第3四半期には、過去最高値となっているのである。しかし、11、12月と急激な落ち込みを見せた。アメリカの中国からの輸入の減少は、この時点から本格的になってきたと考えられる。

 このように、08年第3四半期(7-9月)までは、自動車を中心とする耐久消費財について減少が見られるものの、消費の縮小による輸入の全般的縮小には進んでいなかったのである。アメリカの貿易は、自動車輸入の急減を通じて対日貿易に大きな影響が発生しただけで、輸入全般には目立った変化は現れていなかったのだ。OPECからの輸入も、原油価格が下落した08年第3四半期においても、低下せずに増加していた。輸入額全体で見ても、減少するどころか、むしろ増加していたのである。これは、先にGDP統計によって見たのと同様の傾向である。