8月上旬にFed(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長は、金融緩和の継続を決め、さらに21日には保有する短期国債を売り、長期国債を買い入れる「ツイストオペ」を実施すると発表した。一方、9月上旬にはオバマ大統領が新たな景気対策を発表したが、世界の金融市場の動揺は収まっていない。今、世界経済には何が起こっているか。かつて日本銀行の理論的支柱と目され、最近『ポスト・マネタリズムの金融政策』を著した、翁邦雄京都大学教授に、米国を中心とした金融・財政政策の評価、そしてこれからの政策対応として、何ができるのかについて聞く。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 辻広雅文、ダイヤモンド・オンライン客員論説委員 原 英次郎) 

おきな くにお/1974年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行、80年シカゴ大学留学、83年同大学でPh.D取得・日本銀行復帰(金融研究所)、85年筑波大学社会工学系助教授、88年日本銀行復帰(総務局)、92年調査統計局企画調査課長、94年金融研究所研究第一課長、97年企画局参事、98年金融研究所長、06年日本銀行退職、中央大学教授、09年京都大学・公共政策大学院・教授、現在に至る。『金融政策』(東洋経済新報社)『ポスト・バブルの金融政策』(共著、ダイヤモンド社)『バブルと金融政策』(共著、日本経済新聞社)『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社)など著書多数。

リスク回避、不確実性の高まり
実需の大幅な減少が起こった

 まず、2008年に起こったリーマンショックで、どういうことが起きたか考えてみましょう。米国のFedと財務省が、大手投資銀行であるリーマン・ブラザースの処理を誤った結果、不確実性が大きく高まり、リーマンショックは予想を超えた金融危機になって、金融市場が機能不全に陥った。機能不全の背景にあるのは、市場参加者がみなリスクテイクを極端に避けようとした、ということです。

 金融市場の不確実性の高まりは、実体経済の急激な収縮につながります。経済活動がファイナンスできない、という直接効果だけでなく、企業も家計も濃霧の中にいるような不確実性を強く感じると、耐久消費財を買ったり、設備投資したり、といったことをとりあえず見合わせて、可能な限り先送りする。不確実性そのものが実需の急速な落ち込みにつながるわけです。何が起きたかを私なりにまとめると、誰もリスクテイクしなくなった、不確実性が高まった、実需が強烈に冷え込んだ。それがリーマンショック直後に起きたことです。