
日本銀行は昨年7月から国債の保有を段階的に減らしており、来月にはその方針の中間評価が予定されている。国債市場との関係が深いのは確かだが、それだけを根拠に減額ペースを決めてよいのかは疑問が残る。筆者と藪友良教授との研究では、所得が減ってもすぐには消費を減らさない「ラチェット効果」が、現金や預金の保有にも働いていることが示唆された。こうした傾向を踏まえれば、日銀は国債減額を急がず、慎重に対応すべきである。(ナウキャスト創業者・取締役、東京大学名誉教授 渡辺 努)
利上げでも貨幣需要が減少しない珍現象
日本銀行は、昨年7月から保有国債の段階的な減額を進めており、来月にはその減額計画に関する中間評価が予定されている。
この中間評価に先立ち、今般、市場関係者へのヒアリングが実施された。最近の超長期債の金利上昇を懸念する立場からは、減額ペースのスローダウンを要請する声が上がっている。一方、国債市場の機能度向上を重視する立場からは、減額ペースの加速を訴える意見が寄せられた。市場関係者の間でも、見解が分かれていることが浮き彫りになった格好だ。
たしかに、減額計画が国債市場の在り方と密接に関連しているのは間違いない。日銀が国債市場関係者の意見に耳を傾けるのは当然だ。しかし、国債市場の事情だけで、果たして減額ペースを決めてよいものだろうか。筆者が慶應義塾大学の藪友良教授と共同で行った研究の結果は、他にも考慮すべき事柄があることを示唆している。
以下では、その点を説明していこう。