1ドル「165円」程度がインフレ率急伸の閾値?日銀量的引き締めの影響と長期金利を独自試算Photo:Bloomberg/gettyimages

日本銀行は6月13、14日の金融政策決定会合で、長期国債買い入れを減額する方針を決定した。インフレ率が急上昇するドル円変化率の「閾値」や長短金利の特徴の違いを考慮すると、長期金利の上昇がインフレ抑制に効果的であると示唆される。また、減額による長期金利への影響を試算すると、中長期的に日本経済が抱えるリスクも浮かび上がった。(大和総研シニアエコノミスト 久後翔太郎、大和総研エコノミスト 中村華奈子)

円安進行で高まるインフレリスク
物価上昇が急加速する円安ペースを試算

 日本銀行は2024年6月13、14日に開催した金融政策決定会合で、長期国債買い入れを減額していく方針を決定した。今後1~2年程度の具体的な減額計画が7月会合で公表される。

 これまで概ね横ばいで推移していた日銀の国債保有残高は減少していく見込みだ。3月会合でマイナス金利の解除とYCC(イールドカーブコントロール)の撤廃を決定し、「金利」の面から金融緩和の縮小を進めてきた日銀が、「量」の面からも縮小を図ることを意味する。

 今回の会合に関する注目点は他にもある。植田和男総裁が記者会見で語った、為替についての認識だ。

 今年4月会合後の会見で、植田総裁は円安による基調的な物価上昇率への影響は大きくないとの見解を示していた。

 だがその後、円安が一段と進み、政府は為替介入を余儀なくされた。そして今回の6月会合後の会見では、企業行動の変化を背景に「為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と発言。円安に対する認識を、この2カ月の間に変化させたようだ。

 そもそも、同じ「円安」でもその速度によって物価に与える影響は異なる。為替の変化率が閾値を超えれば、インフレ率が急伸するのだ。

 では、その境界線はどこにあるのだろうか。次ページでは、日本のインフレ率が急伸するドル円変化率の「閾値」や、長短金利の上昇が為替や実質GDP(国内総生産)に与える影響度の違いを試算した。両者の影響度の違いこそが、日銀がこのタイミングで買い入れ減額を決定し、長期金利の引き上げを図った背景にあるとみられる。だが同時に、日本経済が抱えるリスクも浮かび上がった。