退職した官僚が出身中央官庁と関係の深い特殊法人、公益法人、民間企業などの高ポストをあてがわれる「天下り」と、そうしたポストを渡り歩く「わたり」。公務員の「おいしさ」を物語る旧弊のひとつだ。

 ただし、中央官庁の役人については、かねて厳しい批判を受けて、根絶というには程遠いものの、それなりに監視の目は光っている。

 ところが、地方公務員となると事情は違う。まったくの野放しなのである。韓国一般会計予算やノルウェー国家予算に匹敵する年間12兆円近い予算を持つ首都・東京。教員など含む職員数は16万人強にのぼる。

 地方自治体レベルをはるかに凌駕するこの超巨大組織において、放任状態となっている天下り、わたりの実態を追う。怒りの声を上げるべきは、朝霞の公務員宿舎問題だけではない。

 東京都が46%超の株を保有する「東京メトロ」。同社は、東京都職員の優良“わたり”先の1つだ。

 今年7月、同社に新しい副社長が誕生した。彼の前職は、役員報酬の“平均”が約1150万円という財団法人「東京都住宅供給公社」の理事長だ。そして、さらにその前職は、というと、東京都出納長──。彼がメトロを退職すれば、都民の運賃で稼いだ利益から、約2000万円がその懐に転がり込む(退職金額は非公表)。

 東京都は天下りについて「適材適所」と繰り返す。しかし、件の元出納長は、都庁在職中の2006年、会食などを理由に、幾度となく長時間にわたり公用車を待機させたり、女性を同乗させたりしたとして、ガソリン代の返還を求める住民監査請求を起こされている御仁だ。

 当時の東京都監査委員は「職務の範囲内」として請求を棄却したが、一方で「都民感覚では理解しがたい面がある」と、その“非常識ぶり”を指摘するお粗末さだ。