新規事業を成功させるカギは「順序」にあった

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。

日本初のインターネット商用プロバイダが成功した理由

 私が立ち上げから関わったインターネットプロバイダのサービスがスタートしたのは、もう25年前になる。

 その頃、欧米ではインターネットの商用利用がすでに始まっていた。ところが日本のインターネットは学術研究利用に限定された、実験プロジェクトが運営するものしかなかった。

 しかし、日本企業の間にも商用利用のニーズが次第に高まってきた。欧米の企業とメールで商談をしたり、データを送受信する必要性が生じたためだ。そこで、実験プロジェクトに共同研究という名目で企業からの接続希望が殺到していた。

 こうしたニーズに応え、複数の日本企業が新たなデータ通信事業を開始した。しかし彼らはインターネットで使われている通信方式は低品質だと考え、「品質を第一に考える日本企業は満足しないはず」と判断した。

 一方、私たちは違う読みをしていた。従来の日本の通信サービスは「過剰品質」であり、逆にインターネットのような世界中と手軽に通信ができるという便利さがない。日本の企業はインターネットが提供するこれまでにない便利さを求めているのであり、従来のサービスのような高い品質がなくても、商用サービスとして十分受け入れられるはずだと確信していた。

 私たちがそう確信できていたのは、実験プロジェクトに共同研究名義で入り、インターネットに接続していた企業は、かなり高額の研究費を負担していたからだ。彼らは高いお金を払ってでも、世界中の企業や個人と手軽に、スピーディーに通信できる環境を渇望していたのだ。

 私たちは迷うことなく、海外と同じ方式のインターネット接続サービスを始めることにした。料金はもちろん共同研究費より低く抑えた。

 結果、私たちは起業に成功し、急成長を遂げることができた。知っての通り、他の通信方式のサービスは今ではほとんど残っていない。