米国シリコンバレーや北欧では、「立ってデスクワーク」をするオフィス作りが進んでいるのをご存じだろうか。最新ニュースに敏感な人なら、立ってパソコン作業をする画像等を見て記憶に残っている人もいるだろう。こうしたオフィスができる背景にはあるのは、連載第1回目で説明したように、座りすぎが糖尿病や脳梗塞、ガンなどの原因にもなっていること。加えて立って仕事することで、生産性が上がることも実証されている。「デスクワークは座ってするもの」といった固定観念や価値観に縛られない人々、従業員の健康に気を使う企業から座りすぎを脱する環境づくりは始まっているのだ。今回は座りすぎ研究の第一人者、岡浩一朗・早稲田大学スポーツ科学学術院教授の著書『長生きしたければ座りすぎをやめなさい』から、立って仕事する環境作りを進める海外の事例と、その効果について紹介する。

イギリス・オーストラリアが国家ぐるみで始めた
「立ってデスクワーク」のススメ

 米国のシリコンバレーや北欧の先進的なオフィス――

 皆様はこう聞いて、どんなオフィスを想像しますか? 以前なら個室のように仕切ったデスクに、自分の趣味の玩具を飾ったり、時にはペットまでいたりする光景でしょうか。

 でも、実はシリコンバレーや北欧の先端オフィスの最も象徴的なシーンは、働いている人々が立って作業していることなのです。

 この背景にあるのは「座りすぎ」が健康に悪く、病気や死を招くことです。加えて立って仕事をすることで精神状態も良好になり、さらに生産性も上がることがわかってきていることがあります。

 翻って日本。「座りすぎ」が糖尿病や高血圧、ガンまで誘発することが証明され、さらに日本人は「世界一座りすぎる国民」だと判明したからには、国や企業レベルでの対策が必要になってきます。

 特にビジネスパーソンの場合、座りすぎで病気にならないためのカギは職場です。前回紹介したように、日本のデスクワークの人だと仕事だけで1日に10時間以上座っていることも珍しくありません。デスクワークに加えて車通勤だと、1日のうち立っている時間がほとんどない人もいるでしょう。

 ちなみに座りすぎ研究の先進国であるイギリスとオーストラリアでは、既にガイドラインを作成し「座りがちな時間をできるだけ少なくしよう」、「もっと立ち上がろう!」と積極的に呼びかけ、国民の間にも座りすぎを改めようという動きが広がっています。

 そのイギリスの場合、デスクワーク中心の勤労者に対しては、
(1)就業中、少なくとも2時間はデスクワークに伴う座位時間を減らし、そのぶん立ったり軽く歩いたりなど低強度の活動にあてること。理想は座る時間を4時間まで減らすこと。
(2)その実現のために、立ち机を有効に活用すること

 など、具体的な提案もしています。

既存の机もワークステーションを利用すれば、すぐに立っても仕事できるように改良できる。数値入力のような単調な作業ほど立って行うと効率がよくなるという
『長生きしたければ座りすぎをやめなさい』より)

 立ち机とは冒頭のシリコンバレーや北欧、さらにはオーストラリアや欧州で普及している昇降式の机や作業台のことです。机の高さが変えられて立ってもデスクワークができる「スタンディングデスク」と、パソコンを置く台を上げ下げして使う「ワークステーション」の2タイプがあります。この高さが上下するのがポイントで、どちらも立ったまま作業ができますし、疲れたら座っても作業ができます。立ちっぱなしというわけではありません。

 これらを用いれば、座る時間は確実に減らせることが実証されています。

 座りすぎの問題は「座ること」自体ではなく「連続して座り続けること」ですから、対策としては足の血流が悪化する手前で立ち上がり、足を動かすことが原則です。その点、立ち机は頼りになるツールで、作業台を上げて使えば必ず立ち上がれるし、疲労具合や仕事内容に応じて座ることもできるので無理がありません。