スイスに本拠を置く大手製薬企業、ノバルティスの医療用医薬品部門の日本法人、ノバルティス ファーマでは、スイス本社でグローバル契約していたインド系ベンダーとの契約を見直し、国内ベンダーへの切り替えを進めている。人件費の安い海外で開発を行うオフショア活用のメリットとデメリット、グローバルのITガバナンスと国内市場のニーズのバランスを取るための工夫について、CIOの沼 英明氏に聞いた。

コスト効率、市場ニーズへの対応考え、
オフショアをやめる決断

――ノバルティスグループでは2006年ごろから、それまで各国独自におこなっていたシステム開発や運用、保守をグローバルで集約し、インド系のベンダー数社に統一する取り組みを行いました。

沼 英明氏ぬま・ひであき/ノバルティス ファーマ株式会社 企画管理本部 執行役員情報システム事業部長。1953年生まれ。1976年日本チバガイギー(現 ノバルティス ファーマ)に入社。医薬品製造技術、生産物流管理、スイス本社生産設備投資管理、ロジスティクスの各部門を経て、2000年にCIOに就任。2004年から現職。

 もとはアメリカで、インド系ベンダーの活用を進めていたところ、質・コストともに効果が高かったため、2006年からはグローバルでも採用しようという動きになりました。日本でも2008年からその方針にのっとり、ローカルの基幹システムの開発・保守についても国内ベンダーからグローバルで契約したインド系ベンダーに切り替えました。

 しかし、実は今年9月末にその契約を終了し、国内で医薬品業向けシステム開発を専門としているベンダーに切り替えることにしたところです。

 一方、グローバルシステムについては、オフショアはうまくいっており、日本でグローバルシステムの一部を構築・運用する案件については、グローバル契約のオフショアベンダーをフルに活用しています。

――それはどういった理由でしょうか?

 ローカルシステムの開発コストは、インドで行ってもそれほど安くはならなかったのです。それに、グローバルで標準化することは大切ですが、もっと大切なのはビジネス戦略であり、「お客様の健康を守る」というミッション。日本の市場や医療行政を深く理解した国内ベンダーに任せたほうが良いと判断しました。

――オフショアでそれほどコストが下がらないというのは、意外ですね。

 いくら単価が安くても、マネジメントやコミュニケーションで手間がかかり、無駄が発生してしまう。結果、作り直す必要が出てきたりすると、トータルではコスト高にもなってしまいます。オフショアを導入した多くの国内企業が抱えている問題ではないでしょうか。

――具体的には、どのような壁がありましたか?

 大きかったのはコミュニケーションです。といっても英語の問題ではなく、インドで実際に開発するエンジニアと日本のユーザとの間を仲介するエンジニア(ブリッジ・エンジニア)がインドから日本に常駐してくるのですが、インド人のエンジニア同士でも意思疎通がうまくいかなかったりする。むしろ日本人が直接インドに出張して説明すれば解決するということもありました。

 もう1点悩まされたのは、インドのスタッフの流動性です。勤勉で優秀な人ほど新たなチャンスを求めて転職してしまいます。日本でしっかりトレーニングや準備を行い、いざ開発を始めるという日に退職されたというケースもありました。また、インドのベンダーは、規模が大きく財務や生産、製造プロセスなど、対応できるスキルが幅広いのはいいのですが、半面、意思決定に時間がかかり、フットワークが重いと感じることもありました。