Photo:JIJI
まさにデジャブだ。プロ野球の横浜ベイスターズの売却問題。昨年、TBSホールディングスと本格交渉したのは住生活グループだったが、今年の主役は携帯電話によるソーシャルゲームのモバゲーを運営するディー・エヌ・エー(DeNA)である。
交渉過程で球界の大物、読売巨人軍の渡辺恒雄・球団会長が“合意”をリークし歓迎姿勢を見せる一方、楽天が反対の立場を表明。オリックスとロッテを巻き込み、揺さぶりをかけてきた。「球団譲渡には、オーナー会議で4分の3以上の同意が必要」とする野球協約があるため、あと1球団が楽天支持に回れば売却は成立しない。
そんな折、横浜を地盤とするガス会社のミツウロコが京浜急行電鉄グループと組み、受け皿として名乗りを上げたと報じられたことで、事態が複雑になってきた。地元をアピールすることで、他の球団の支持を得やすいからだ。
窮状を極めている球団経営からいえば、DeNAが有利だ。同社は「長期保有」を表明するとともに、懸案の“出会い系”についても監視の徹底を強調している。
そもそも、球団は毎年、20億~30億円の営業赤字を計上している。重荷となっているのは、「本拠地を横浜スタジアムにすること」。住生活グループとの交渉が決裂したのも、まさにこの点である。
じつは、横浜スタジアムは他の球団と異なり、球場内での売店や広告看板収入などはすべてスタジアムのものとなり、球団に入ってくるのは入場料収入だけという。
1年目から黒字化した楽天の場合は、宮城県が好意的で、年間5000万円の使用料だけを払えば、入場料収入も、売店や看板広告収入も手にできたが、横浜ベイスターズではスタジアムに支払っている使用料が入場料収入の25%(前年度は年間8億円)と高いうえ、付随収入もない。
しかも、横浜スタジアムは国有地を市が借り上げて建設したため規制が多く、現に施設の新築や増築もしにくい。「満員にしても黒字化は難しい」というのが定説だ。
プロ野球の放映権が下落し、企業の接待需要が落ち込んでいるなか、DeNAがプロ野球に参入するメリットはあるのか。現に株式市場は懐疑的で、買収交渉が明らかになった10月21日の終値は前日に比べて10%以上、下落した。
だが、DeNAの読みは違う。「じつはモバゲーのユーザーの4割は30代以上の世代」(幹部)。つまり、プロ野球の主要顧客である中高年をモバゲーに取り込むためにも、球団買収による知名度向上効果は大きいと見る。
加えて売上高1127億円、営業利益560億円を誇るDeNAは、販促・広告費に年間196億円を投じている(2010年度実績)。毎年30億円規模の球団への赤字補填はそう大きな負担ではない。
資金力で有利なモバゲー、楽天など反対球団の理解を得られやすいミツウロコ陣営──。12月1日のオーナー会議に向け、勝負は予断を許さない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)