ビジネスの課題は複雑で、そう簡単に解決策が見つかるものばかりではない。にもかかわらず、上司は部下に対して解決策の提示を強要しがちである。そうした行為は問題の早期解決につながるどころか、部下を萎縮させ、重大な問題の発覚を遅らせる環境を生むと筆者はいう。本記事では、生産的な問題解決に向けて取るべき、3つのアプローチが示される。


「問題を持ってくるな。解決策を持ってこい」という言い回しは、そろそろ封印したほうがよさそうだ。部下に問題ではなく解決策を持ってくるよう促すアプローチを、いまだに支持する人に言わせれば、そのほうがグチが減り、自信がつき、自己管理がうまくなり、キャリアアップにつながる、ということになる。だが、それは実のところ問題が多い。

 たいていの問題は、すぐには解決策が見つからない。むしろ、ビジネスの最重要課題は概して複雑であり、それを解決するためには、有能な人々からの多様な視点が必要になるケースが少なくない。しかも、ペンシルバニア大学ウォートン校のアダム・グラント教授によれば、解決策だけを重視する思考法は、「主張するだけで問いかけをしない文化」を生み出す。そうすると、誰もが自分の解決策にこだわり、その手法を主張するばかりで、多様な視点から考えることができなくなるのだ。

「解決策を持ってこい」アプローチでは、社員は恐怖で口をつぐみ、萎縮の文化を生み出すうえ、絶体絶命の危機になるまで問題の発覚を避けるようになる。私のクライアントである、ジェームズ(仮名)の事例を紹介しよう。

 業界でも革新的なサービスを提供する会社で社長を務めるジェームズは、スタッフが問題を指摘すると不快感をあらわにしがちだ。チームメンバーが問題やリスクを告げると、ジェームズは誰かが失敗したのだと思い、癇癪を起こして声を荒げることが多いという。そうして怒りを爆発させるせいで、現場の士気は下がり、チームはプロジェクトへの意欲を失い、問題についてジェームズに話すのをためらうようになる。

 その結果、取り組んでいるプロジェクトについて、よい報告だけをするようになり、ジェームズには潜在的な問題が見えなくなる。また、メンバーは互いにジェームズから受けた傷口をなめ合うことに長い時間を使い、生産性も上がらない。

 では、「問題を持ってくるな」と言うことが、これほど問題であるにもかかわらず、なぜこうも多くのマネジャーが、そう言い続けているのだろうか。

 その大きな理由の1つは、グチの文化をつくりたくない、ということにある。しかしプロジェクトについて、あり得る落とし穴や障害を伝えることは、グチや不平不満とは別物であり、ポジティブに報告できるはずだ。問題を適切な方法で伝えることができれば、社員は安心して、早い段階で悪い知らせをあなたに報告するようになり、危機を回避するための時間的余裕が生まれる。

 以下、あなたのチームが、より生産的に問題を指摘するよう促す方法を紹介しよう。