3月11日の震災から半年以上が経ち、被災地での行方不明者の捜索は壁にぶつかっている。遺体の腐敗は進み、顔や体で識別することが困難になっている。
そこで、歯科医師による歯科所見やDNA型、指紋による判定が注目されている。
今回は、震災直後に被災地に入った歯科医師への取材を通じて、「大震災の生と死」を見つめる。連載第1回では検死をテーマにしているので、併せて読んでいただくと、現場の実態を一層よくつかむことができると思う。
はるばる安置所に到着した2人の歯科医
遺体から聞こえてくる“声にならぬ声”
3月13日、宮城県気仙沼市の小学校の体育館――。2人の歯科医師の前に、130体ほどの遺体が床に並ぶ。2日前にこの地域を襲った津波による犠牲者だ。
日本歯科大学教授の都築(つづき)民幸氏、同大学講師の岩原香織氏は警察庁から依頼を受け、前日に都内から駆けつけた。
2人はこれまでに事件や事故、自殺などで身元がわからない遺体に関わってきた。警察の依頼により、それらの遺体の検査やその記録、さらに生前の歯科情報との照合などを行なう。それが、遺体の身元特定につながる1つのきっかけになる。
都築氏は2001年、新宿・歌舞伎町の雑居ビルで火災が発生し、44人が死亡した事件に関わったことで知られる。経験豊富な2人も、ここまで多くの遺体を一度に見るのは初めてだった。都築氏は、「震災直後ということもあり、遺体の損傷は少なく、比較的きれいだった」と振り返る。
「小さな女の子の遺体があった。その前で、おばあさんが『早く見つけることができなくて、ごめんね』と泣いていた。それを見ると、動揺するものはあった。家族の元にご遺体を早くお返ししないといけないと、強く思った」