救えるはずの子どもが救えない…小児がんの"良薬"はどこへ消えた?「ドラッグロスト」の恐怖小児がんの基本薬剤が出荷停止になった。いったい何が起きているのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

いったい何が起きているのか?
子どもを救う「小児がんの薬」に異変

 小児がんの基本薬剤が出荷停止になった。

 この国はどうして、子どもの生命を一番に守ろうとしてくれないのでしょう――。

 4月、以前取材で出会った小児がんの専門医から窮状を訴えるメールが届いた。止まらない少子化に伴って縮小の一途を辿る小児医療の中でも、「小児がん」が置かれている状況は厳しい。

 2月には「再発神経芽腫」の基本的な薬剤「ハイカムチン(R)注射用 1.1 mg」(海外一般名:トポテカン塩酸塩)が出荷停止となり、3月には「横紋筋肉腫」の基本薬剤「コスメゲン静注用0.5mg」(一般名:アクチノマイシン D)が供給不安に陥った。

 一体何が起きているのか。国立成育医療研究センター・小児がんセンター長の松本公一氏は言う。

「最近、新しい薬がもてはやされる中で、ほとんど利ザヤのない昔からの良薬の供給が滞る事態になっています。ハイカムチン(1.1mg;6070円)は12月まで入手が難しくなりそうとのことです。基本的な薬剤が使えなくなることは大きな痛手です。また、アクチノマイシンD(0.5mg;4004円)も、全くメドが立たない状況のようです。治療できない患者さんは、それこそ命に関わるのですが、新薬にばかり社会の目が行って、こういう大切な薬が疎かになっているのが悲しいです」

 参考までに、2021年に小児がん用抗がん剤で初めての医師主導治験による国内承認を取得したある新薬の価格は、17.5mg5mL1瓶;136万5888円で価格が3桁も違う。

 日本全体で新たにがんにかかる人は年間約100万人と言われるが、そのうち15歳以下の小児の罹患数はわずか2000~2500人しかいない。しかも種類が多いため、すべてが希少がん(人口10万人あたり6例未満の「まれ」な「がん」)だ。

 このように、圧倒的マイノリティである小児がんの治療薬の開発は、巨額を投じても回収が難しいことから、手を出す製薬会社は少なく、海外で承認された治療薬が日本で使用できるようになるまでのドラッグラグが問題になってきた。