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楠木建 ようするにこういうこと

グローバル化の3つの壁(その1)
過剰英語への構えの過剰

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第5回】 2011年11月28日
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 どこの企業の方と話しをしても、このところ決まってグローバル化への対応が話題になります。それが自然なことであればグローバル化グローバル化と大騒ぎする必要もないわけで、これほどまでにグローバル化が話題になるもの、それが一筋縄ではいかないからでしょう。そこで日本企業(といってもあまりにも大雑把な話なのであくまでも傾向としてですが)がグローバル化しようとするときに直面しがちな「3つの壁」について、今回から3回に分けて考えていきます。

 本来はある目的を達成するための手段がいつの間にか自己目的化してしまい、その結果、当初の目的を離れたヘンなことになる。「手段の目的化」は古今東西の経営の失敗パターンとしてもっともよくみられるものです。

 逆説的に言えば、ほっておいたらどうしても「手段の目的化」が起きてしまう人間の組織のなかで、いかに本来あるべき手段と目的の連鎖をつくり、貫徹していくのか、そこに経営の本質の一つがあるといってもよいでしょう。

 助川幸逸郎さんの書いた『光源氏になってはいけない』(プレジデント社)という本を面白く読みました。これは今日的な文脈で源氏物語を読み解き、そこから引き出せる現代社会へのインプリケーションを論じた本です。

 とりわけ面白かったのは、稀代のプレイボーイで恋愛業界のスーパーマンのようにみえる光源氏が、途中から恋愛そのものを目的とする「マニア」になってしまい、このことが彼の後半生の不幸につながっているという指摘です。つまり、要不要を超えてあらゆる「恋愛」をとりあえず経験しておこうとする光源氏の恋愛に対する過剰な取り組みが、生きていくうえで相手にする必要がまったくない女性までも巻き込むことになり、ここからさまざまな厄介なことが始まってしまったという話です。

 著者の助川さんは光源氏のような「過剰な取り組み」の例として、紳士靴マニアを挙げています。紳士靴マニアはできる限り多くの靴を手元に置こうとする。それを重ねるうちに、似合わないものを身に着けることへの警戒心がマヒしていき、まったくおしゃれにみえない「紳士靴おたく」になってしまうという成り行きです。

 グローバル化の第一の壁、それは言うまでもなく「言語」です。ようするに英語の壁です。

 このところの日本では「英語力をつけよう!」「英語のスキルが不可欠!」というかけ声がひっきりなしに叫ばれています(昔からそうでしたが、いよいよ最近は本格化してきました)。この辺、手段の目的化の匂いがプンプンするところです。英語に対する構えの過剰やその裏返しとしてのマニアックな英語習得の努力が、かえってグローバル化を困難にしているのではないでしょうか。

 なんといっても言葉の違いは大きい。言葉が通じなければ商売になりません。逆に言えば、他国の人と文化や宗教、考え方が違っても、言葉さえ通じれば何とかなります。もし世界中の人がなぜか日本語を使っている(もしくは、使おうと思ったら使える)としたらどうでしょうか。ずいぶん気楽な世の中でしょう。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


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本格経営書として異例のベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』の著者、楠木建一橋大学大学院教授が、日々の出合いや観察からことの本質を見極め、閉塞を打ち破るアイデアを提言。
 

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