日本の食のシーンにおいて、なくてはならない醤油。一時期は、「卵かけごはん」用の醤油などがクローズアップされることもあったが、それだけ醤油に対してこだわりの嗜好を持つファンが多いということであろう。
そんな今、全国の老舗の醤油銘柄を紹介するサイトが、静かに注目されているのをご存知だろうか? 醤油や調味料の専門サイト「職人醤油.com」がそれだ。東北から九州にまでわたる39の醤油蔵で、職人たちが丹精を込めてつくった醤油銘柄を案内している。
中には、100~200年以上の歴史を誇る老舗も少なくないというが、ユニークなのは全ての銘柄を100mlのサイズに統一して販売していること。気軽に購入できるため、全国の愛好家からは“利き醤油”ができると評判だ。
醤油の味は地域性を色濃く反映しており、関東では濃口醤油、東北・北陸・九州では甘口醤油が主流だという。そんな多彩な味わいも手軽に堪能できるのだ。さらには、各々の醤油蔵や職人のことも詳しく紹介し、「顔の見える醤油職人」としても信用を集めている。
このサイトを運営しているのは、群馬県前橋市に拠点を置く株式会社伝統デザイン工房だ。代表の高橋万太郎氏は、1980年生まれという若き「醤油プロデューサー」。大学卒業後、大手精密電子機器メーカー「キーエンス」で営業に従事。もともと起業に興味を抱いていたが、ある日ふと耳にしたスティーブ・ジョブス氏の卒業祝賀スピーチ(2005年6月、スタンフォード大学)に感銘を受けて退社、独立を果たしたという異色の経歴の持ち主である。
そんな彼が、全国の醤油メーカー250社以上を歩き、立ち上げた「職人醤油.com」。ときに醤油ソムリエとして、ときに醤油の営業マンとして奔走し、彼らの取り組みは小売業界でも注目され始めた。昨年10月、三越日本橋店や西武池袋本店がここの醤油を採用した他、今年9月には、東急ハンズ渋谷店の催事で「職人醤油.com」コーナーが誕生したほどだ。
現在、日本には実に1600社ほどの醤油メーカーが存在するという。しかし、その多くが地場産業の枠を抜け切ることができず、さらには国内大手メーカーや中国メーカーに押され、経営は楽ではない。味と腕には絶対の自信と誇りを持つ彼らだが、ビジネスとしては時流から残されつつあるのが現状だ。
そんな中、醤油をプロデュースする高橋氏のような存在は、極めて貴重なものであろう。日本文化が誇る全国の逸品を丹念にすくい上げ、広く紹介されることで、醤油という伝統技術に新たな光が当たる――そんな価値ある循環を、これからも見守っていきたい。
(田島 薫/5時から作家塾(R))