今の学生は素直すぎる。
とても危機的なほどに

 授業が終わると同時に、耳にイヤフォンを差し込んだまま、学生の一人が近づいてきた。

「質問だけどいいでしょうか」

「もちろん質問はいいけれど……」

 僕は言った。

「どうして授業中に質問しないのかな」

「だって誰も質問しなかったので」

「誰かが質問するまではできないということ?」

「場の空気がありますから」

 あっさりと言われて、僕はため息をつく。

「でもその『場の空気』は、あなたたちが作っているんだよ」

「それはそうですが、最初の一人はまずいです」

 何がまずいのだろうと思いながら、「とにかく、そのイヤフォンをまずは外しなさい」と僕は言った。

「今は何も聴いていません。耳に入れているだけです」

「何で聴かないのに、耳に入れているの?」

「落ち着くんです」

「礼儀というか礼節の問題です。とにかく外しなさい」

 学生は素直に応じた。イヤフォンを装着しながら教員に質問するなど、僕の感覚では嫌がらせかと思いたくなるのだけど、どうやらそういうつもりではないらしい。こういうときに反論が返ってくることはまずない。