「子連れ出勤」はどこまで許されるのか写真はイメージです

 社会課題に関する議論は炎上しやすい。なぜなら、人が社会課題について語る時は、必然的に「各人がそれぞれに有する正義」を背景にして語るわけだが、多くの人は「自分の正義」を相対化して考える訓練を受けていないので、絶対的なものとして捉えがちになる。つまり、議論が感情的になる。

 とくに日本人は、当連載で何度も指摘しているように、物事をコンセプト化して考えることが苦手なので余計に感情的になりがちだし、議論がとっ散らかってしまう傾向にある。とっ散らかるとは、本質論から乖離するという意味だ。そして、本質論から乖離すると、解決すべき社会課題がどこかに置き去りにされてしまう。

 いま、熊本の女性市議が赤ちゃんを連れて市議会に出席した件がネットでも賛否両論の議論になっているが、ちょっとおかしな議論になっていると思う。というわけで、今回はこの熊本の件を題材に、社会課題を考える視点について述べてみたい。子育て問題に限らず、あらゆる社会課題に向き合う時の一助になればと、本件を取り上げる次第だ。

異例の子連れ議会出席に
対する賛否両論

 この問題はニュースやネットでも話題になったのでご存じの方も多いと思うが、念のため簡単に概要を説明しておこう。日付は11月22日。熊本市議会に、緒方夕佳市議が生後7ヵ月の赤ちゃんを抱いて出席したことに始まる。

*以下、「NHK NEWS WEB」11月25日記事より引用


熊本市の定例市議会は22日開会し、午前中、本会議が行われました。しかし開会前、緒方夕佳議員(42)が、生後7ヵ月の長男と一緒に出席しようとしてほかの議員から退席を求める声が上がったため、議長や議会運営委員会の委員などを交えた話し合いが行われました。


 結果として市議会の開会は40分遅れる「事件」になったということだが、この行動の背景として、緒方議員は妊娠が判明した時点から、市議会に対し「議会開会中に子どもを預ける場所がない。保育園やベビーシッター助成などの整備を」と訴えていたが、まともに対処してもらえなかったので今回の行動に至った、とのことである。

 この緒方議員の行動と主張に対してネットでも賛否両論だが、ざっと見たところ批判派のほうが多いように思える。Twitterではさまざまなユーザーがアンケートをとっているが、だいたい6~8割くらいの人が批判的なようだ。西日本新聞の調査でも、「反対6割に対し、賛成2割、どちらとも言えない2割」という結果だったという。

 ちなみに僕は、女性支援団体「ガールパワー」のプロデュースも行っている関係で、シングルマザー団体も含めてさまざまな女性団体とも親交があるので意見を聞いてみたが、女性団体で活動している女性たちもおおむね批判的であった。批判派の意見は、集約すれば「そもそも議会に赤ちゃん連れが非常識」「ルールを作る議員がルールを破るのはおかしい」「パフォーマンスが過ぎる」というもの。これに対して、擁護派も反論をしている。