ベトナム 2017年12月6日

日本人が戸惑う「ベトナムでは治療費は前払い」ベトナムの緊急医療事情【その3】

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日本で15年間の編集者生活を送った後、ベトナムに渡って起業した中安さんによる、ベトナムの緊急医療事情レポートの最終回です。

●関連項目:ベトナムの緊急医療事情【その1】

●関連項目:ベトナムの緊急医療事情【その2】

 

ベトナムの病院は治療費の前払いが求められる

 私がベトナムに来て戸惑ったことのひとつは、治療費が前払いであることだ。これは緊急時でも同じである。
 
 ホーチミンシティ滞在中に急病になった知人に付き添って、病院に行ったことがある。急を要する状況であったにもかかわらず、病院側のスタッフは冷静に「最初にお金を払ってください」と言う。
 
 知人は海外旅行保険に入っていて、それを提示したのだが、現金での支払いを求められた。「後で保険会社から還付を受けてください」とにべもない。クレジットカードで支払いをしようとしたが、それも受け付けてもらえない。

 治療前に支払うのは「保証金」であり、実際にかかった治療費が分かった時点で、差額を返金するというシステムだったのだ。治療を始めてから「保証金」の範囲で対応できないことが分かれば、追加でお金を払うことが求められる。
 
 折悪しくその日は日曜日で、銀行は開いていない。すると「どこの銀行に口座をお持ちですか?」と尋ねられ、銀行名を告げると、最寄りのキャッシュディスペンサーの場所を丁寧に教えてくれた。こういう対応に病院側も慣れているのかもしれない。

 ベトナムはまだ所得の低い人が多い。「医は仁術」と言われるが、「まず治療を」では、病院の経営が立ち行かなくなってしまうのだろう。「病院に意識不明の重病人が運ばれてきたら、医師は、患者の『症状の確認』をするより先に、患者の『財布の状態』を見る」という言葉もあるそうだ。緊急時のことを考えると、財布の中に、常にある程度の現金を入れておいたほうがいい。

国外搬送はさらにお金がかかる

 費用に関して注意が必要なのが、国外搬送が必要になった場合だ。
 
 ベトナムでは、症状が重篤で国内で対応できないと、近隣諸国の病院に送られて治療を受けることがある。保険がカバーしてくれたらいいが、そうでないと、大変なことだ。

 その昔、私の会社の日本人社員が、急に具合が悪くなり、外資系のクリニックに運び込まれたことがある。私は電話で連絡を受けて駆けつけると、緊急を要する状態ではないのだがベトナムでは対応が難しく、日本に戻って治療を受けることになった。
 
 その日の夜に出るフライトの座席はおさえたが、本人は意識がはっきりしておらず、一人で飛行機に乗せるのは無理だ。そこでクリニックの人に付き添いをお願いした。

 もちろんこれも前金だ。金額はよく覚えていないのだが、日本円で20万円少々だったと記憶している。そんな大金は手元には持っていない。既に夜になっていて、会社の金庫からお金を出そうにも経理担当の社員は帰宅している。
 
 窮地を助けてくれたのが妻だった。すぐに現金を用意してくれるという。私は「ベトナム版・山之内一豊の妻、ここにありき!」と感謝しながら、お金を受け取った。

 「山内一豊の妻」と言っても、今の若い人はご存知ないだろうと思うので、少し説明をしておく。山内一豊は戦国武将。彼が名馬を購入する際に、妻がへそくりを出してくれたという逸話が「良妻」「内助の功」の例として伝わっている。

 このときは、通常のフライトに搭乗できたから安く済んだが、特別にヘリでも出そうものなら、それだけで1000万円ぐらいは軽くとんでしまうのではないか。自分が加入している保険は、緊急搬送時の費用がカバーされているかどうか、確認しておいたほうがいいだろう。

ホーチミン市内で最大級の総合病院・チョーライ病院にある診察代の支払い窓口。急患にも対応できるよう24時間、365日開いている【撮影/中安昭人】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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