緊急連絡カードを常時持ち歩こう

 ベトナムのように緊急医療体制が整っていないこの国で生活する我々は、自分の身を守るために何ができるのだろうか。
 
 ホーチミン日本商工会の取材を受けてくださった医療関係者は、
「最低限、やっていただきたいことは、緊急連絡カードを常時持ち歩くことです」
と助言をくださった。

 緊急連絡カードには、特に決まりはない。緊急時に必要な情報を何かに書き記して、財布の中など分かりやすいところに入れておくのだ。
 
 記入すべき情報は、血液型、持病の有無、家族の携帯電話の番号、会社の連絡先、それから自分が行きつけにしている病院などである。これをベトナム語、英語、日本語で書いておく。
 
 緊急での対応が必要なのは、自分自身が意識を失っているなど、自分で何もできない状態に陥ったときである。そんなときにも、何らかの助けが得られるようにしておくことは欠かせない。

 私は、海外旅行保険の証書を常に財布に入れて持ち歩いていたが、「それでは十分ではない」という。
 
「保険会社に連絡が行っても、保険会社が救急車の手配をしてくれるわけではありません。加入している保険でキャッシュレス診療が受けられる病院の紹介はしてくれるでしょう。でも、提携先の病院が事故の発生現場の近くにあるとは限りませんし、病院に連絡が取れるまでに時間もかかります。緊急時には、30分以内に病院に行って治療を受けられるかどうかが、生死を分ける場合がありますからね」

 つまり「事故現場から最寄りで、かつ必要とされる治療が受けられる病院」に、いかに短時間でたどり着けるかがポイントなのだ。
 
 日本では、それを「救急車」という形で行政が行っている。ベトナムでは、これに近い業務を行っている民間の業者があるという。そういう医療機関と契約していると、ベトナム全国、どこで事故が発生しても、最適の病院を紹介してくれるそうだ。そこが発行するメンバーカードを常時携行していれば、例え本人が意識を失っていても、適切な対応を受けられる可能性が上がる。

 「日本は行政による緊急医療態勢が整っているので、日本人は『事故が起きても、急病人が出ても、何とかなる』と思ってしまいがちなんです。しかしここは日本ではないのです」
という医療関係者の方の言葉は、私にとって耳が痛かった。まさに私も「何とかなる」と思っている一人だったからだ。

日本では普及が進んでいるAED(心臓に電気ショックを与え、正常なリズムに戻すための医療機器)は、ようやく最近、ベトナムにも入ってきた。日系の会社でも販売をしている【撮影/中安昭人】

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お節介なベトナム人に助けられて


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