ちなみに筆者が一番驚いたのは、ある大新聞の管理職の男性が、会食の最中に険しい表情で「貴乃花親方の行動はおかしい」と論じたことだった。新聞社にお勤めの方は「組織人濃度」が高いと常々感じるところだったが、この方はまさにそうだったようだ。

内部告発者としての評価

 さて、貴乃花親方の意図の全貌は、いまだ分からない。暴力沙汰をうやむやにしてはいけないと思っているだけなのかもしれないし、暴力事件の背後にある問題も含めて告発、あるいは解決したいのかもしれない。いずれの意図であるとしても、親方が相撲協会の関係者である以上、彼は「内部告発者」の立場にある。

 内部告発のやり方として今回の経緯を評価すると、貴乃花親方のやり方にはプラスに評価できる点と、心配な点とがある。

 プラス評価できるのは、初期の段階から事態の解決を協会の手に任せなかったことだ。それは、彼が協会の主流派の人々を信用していないからなのだろうが、例えば協会が指名する第三者委員会などが調査に乗り出しても、協会に都合のいい結論しか出さないだろうし、情報と印象を操作されて、最悪の場合、暴行事件自体をうやむやにされてしまうリスクがあった。

 他方、現時点で心配なのは、貴乃花親方が警察一本に問題解決を任せているように見えることだ。警察も信用できない場合があるというと穏やかでないが、国技である相撲の人気や相撲協会の事情を警察が“忖度”して、事件の処分を軽く済ませたり、相撲協会に時間を稼がせたりする可能性が全くないわけではない。

 内部告発の定石として、(1)情報の通報チャネルを複数持って、情報を握りつぶされたり歪められたりしないように気をつけること、(2)事態の推移を記録し、またできれば事実に関する動かぬ証拠を確保しておくこと、の二点が重要だが、現時点で貴乃花親方がこれをどの程度クリアしているのかが分からない。

 前述のように、多くのメディアは相撲協会と利害関係があるので、必要な時に正しい情報を流すことができる、信頼できるチャネルを持つことは容易ではないかもしれないし、暴行それ自体をどの程度「証拠」として残しているかにも心配がある。