「新入社員の交通事故ゼロ」を実現。従業員の多くが車通勤するナカニシが「JAF交通安全トレーニング」を導入した理由と成果ナカニシ本社(栃木県鹿沼市)のセンターコートにて「JAF交通安全トレーニング」個人受講の振り返りを行う同社の新入社員たち。同トレーニングの導入後、新入社員の交通事故は2年連続でゼロとなった

従業員の通勤・業務中の交通事故は、企業にとって大きなリスクである。歯科医療用製品の製造・販売などを手掛けるナカニシ(栃木県鹿沼市)は「JAF交通安全トレーニング」を導入し、新入社員の交通事故の2年連続ゼロを実現した。取り組みのポイントについて、同社の有賀浩一執行役員に聞いた。

「新入社員の交通事故ゼロ」を実現。従業員の多くが車通勤するナカニシが「JAF交通安全トレーニング」を導入した理由と成果ナカニシ 
有賀浩一 執行役員
管理部門(総務・人事・法務担当)

従業員のほとんどが自動車通勤、新入社員の事故の多さが課題だった

 東武鉄道日光線・新鹿沼駅から車で10分ほど走ると、幹線道路沿いにひときわ目を引く銀色の建物が見えてくる。ナカニシが2017年4月にオープンした本社R&Dセンター(通称 RD1)である。24年4月には、同敷地内に新工場「M1」の一部が完成した。

 ナカニシは超高速回転技術をコアに、歯科医療用製品、外科医療用製品、一般産業用製品の三つの領域で事業を展開している。売上高の8割を占める歯科医療用製品は世界140カ国以上で販売され、中でもハンドピースと呼ばれる歯科医療用の切削器具では世界トップクラスのシェアを誇る。

 本社がある栃木県鹿沼市に「M1」の他、「A1」「A1+」の三つの工場があり、部品から組み立てまでほぼ同市内で一貫生産している。2000年には株式を日本証券業協会に店頭登録(現・東京証券取引所スタンダード市場に上場)、まさに地元・鹿沼市を代表する企業である。

 同社の総務・人事・法務担当、管理部門執行役員である有賀浩一氏は次のように語る。

「当社は1930(昭和5)年に東京都千代田区で創業した後、45年に第二次世界大戦の戦火を避けるために栃木県鹿沼市に疎開し、以来、この地で事業を続けてきました。当社はグループの価値観『Our Core』において、“革新的『削るテクノロジー』による『美しい進歩』の創造”をミッションとして掲げています。私たちは、創業以来「社会のお役に立ちたい」という思いを常に抱きながら、より良い技術やサービスを生み出すことで、超高齢化などの社会の課題を解決し、人々の豊かな暮らしの実現に貢献することを目指しています」

 最近では、CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)経営が注目されるようになっている。ナカニシはまさに、経済的価値(利益の獲得)と社会的価値(社会的課題の解決)を両立するCSVの実現を目指しているわけだ。それだけに、交通事故の防止についても、重要なテーマと捉えて対策を行ってきたという。

「ひとたび交通事故が起こるとさまざまな関係者の期待や幸せに大きな負の影響を与えます。会社が交通安全に取り組むことを通じて、従業員一人一人が、社会の一員としての役割を日々大きく果たしていく、人々の幸せに貢献していく、こういう思いを私たちの交通安全の活動に込めております。また、企業活動を行う各地域においては、その地域の『平穏な暮らしへの敬意』を表し、『人々の暮らしと共にありたい』、そういう思いをこの交通安全の活動に込めております。しかし、従業員によるたった1件の交通事故により、これまで築いてきた社会との関係性はもとより、従業員の幸せも一瞬にして崩れてしまうリスクがあります。『良き社会の一員である』ために、交通安全教育を通して事故発生を未然に防止していくことは、企業としての責務であると考えています」(有賀執行役員)

 交通安全教育も継続的に行ってきたが、なかなか「事故ゼロ」にはならなかったという。背景には本社や工場のある鹿沼市の地域性も関係しているようだ。

「本社や工場には約1400人の従業員が勤務していますが、公共交通機関へのアクセスが限られるため、そのほとんどが車通勤です。軽微なものも含めると、年間十数件の事故が発生していました。中でも、入社1年目の新入社員による交通事故が毎年のように発生していました」(有賀執行役員)

 同社では、高卒採用も多い。高校の在学中や卒業後すぐに運転免許を取得し、4月1日の入社式から車で通勤することになる。いきなり毎日ハンドルを握る環境になり、運転に慣れていないため、新入社員が事故を起こす確率も高くなるわけだ。