拉致被害者の家族にとっても晴天の霹靂
列島を駆け巡った「金正日死去」のニュース
「以前からこういう時期がくることは予測していたが、世界的罪悪人の独裁者が亡くなり、正直ホッとした」
12月19日の夕刻、永田町の衆議院第一議員会館。北朝鮮による日本人拉致問題の被害者家族らによって結成された「家族会」(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)の飯塚繁雄代表は、会見に集まった記者たちの前で、静かにこう切り出した。
隣では、家族会とタッグを組んで拉致事件の解決に取り組んできた「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)の西岡力会長、平田隆太郎事務局長が、その姿を見守っている。
飯塚代表が語る「世界的罪悪人」とは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正日総書記のことだ。この日の昼から午後にかけて、日本中を「金正日総書記死去」のニュースが駆け巡った。北朝鮮の国営メディアが特別放送を行ない、金総書記が17日に死亡していたことを明らかにしたのである。
家族会や救う会にとっては、まさに晴天の霹靂だった。飯塚代表自身、ニュースを聞いた娘からの電話でこの事実を知り、驚いたという。
金総書記と言えば、日本人拉致事件に深く関与していたことで知られている。家族にとっては、親や兄弟の仲を無理矢理引き裂いた張本人。「罪悪人」という言葉は、心の底から吐き出された言葉に違いない。
「以前から、金総書記が死んだときは1つのチャンスだと思っていた。彼は『拉致問題は解決済み』としていたため、交渉に対してとりつくしまがなかった。指導者が変わることで、状況が少しはよくなることを期待したい」と、飯塚代表は今後について期待をにじませる。横田めぐみさんの父・横田滋さんをはじめ、会見に出席しなかった他の家族たちも、メディアに対して「事態を打開するチャンス」と口々に語っている。
金総書記の後継者には、権限委譲が進められていた三男の金正恩氏が就任することが、正式に発表された。拉致事件に関わりのない「若きリーダー」へと権力が委譲されることにより、今後拉致問題は解決に向けて進展の兆しを見せるのだろうか。