組織で新施策を提案しても、既得権者からの抵抗によって葬られることは往々にしてある。イノベーションをめぐる政治的駆け引きのメカニズムを理解して、それを利用するための4つのステップが示される。


 あるグローバルなテクノロジー企業の中間管理職――仮に名前をデニースとしよう――は、問題を抱えていた。

 彼女は、会社の在庫管理のアプローチを改革する案として、「眠っている」リソースをネットワーク化することを思いついた。具体的には、世界各地の事業部門における在庫の需要と、その使用状況をリアルタイムで追跡することで、各事業部門の余剰在庫を特定し、それを必要とする部門へ配送するシステムを提案したのである。このイノベーションによって、ある事業部門の余剰在庫を在庫が足りない部門へ回して効率を高められるし、ひいては全社規模で在庫維持費を抑えることができる。

 ところが、デニースがこのアイデアを事業部門の幹部らに提案したところ、誰一人として関心を示さなかった。

 幸いにも、私のエグゼクティブMBAプログラムの生徒だった彼女は、イノベーションをめぐってどんな政治的駆け引きが働いているかを、時間をかけて理解した。そして一連の手順を踏み、その力学をみずからのメリットにつなげたのである。

イノベーションをめぐる政治的駆け引き

 誰もが組織でイノベーションを起こしたいと考えている。イノベーションは成長と収益を後押しし、文化の変化を促し、社会を前進させるものだ。

 だが我々は、意義あるイノベーションへの取り組みには、破壊的な一面が伴いうることを忘れがちだ。すなわち、誰かのアイデアが勝てば、他の誰かの案が負けるのだ。

 イノベーションは、将来に見返りが得られる確証なしに、相当量のリソースの配分・活用を必要とすることが多い。この不確実さゆえに、選択過程に政治的駆け引きが入り込む余地が生じる。関係者が、自分の利益になるイノベーションを選んでもらえるよう、意思決定者に働きかけようとするのだ。

 このため、初期段階のイノベーションや、パフォーマンスデータの収集のためのイノベーションにおいて、確たる証拠が不足している場合、現在の権力と物理的・社会的なリソースへの支配力を維持しようとする政治的駆け引きが生じやすい。

 たとえば、すでに地位を確立している複数のハードウェア製造ハイテク企業のマネジャーらへのインタビューでは、次のことが判明している。彼らはリソース配分において、破壊的イノベーション(利益を示す確たる証拠が揃っていない)よりも、持続的イノベーション(利益率が高く、大きな既知の市場と顧客がターゲット)を優先しているという。

 ただし幸いにも、イノベーションの促進を目指す人は、この政治的駆け引きを、みずからのメリットになるよう利用できる。デニースが実践した4つのステップを見てみよう。