キャリアに関するアドバイスで必ずと言っていいほど提唱される「好きなことを追い求めよ」――『今いる場所で突き抜けろ!』の著者、カル・ニューポートは、この教えには重大な誤りがあると主張する。著者自身の就活体験から確信したその理由を、本書の序章から抜粋して紹介。
「好き」を仕事にするには、どうすればいいか?
2010年の夏まで、私は1つのシンプルな問題ばかりを考えていた。
「自分の仕事が好きでたまらない人がいる一方で、なぜ多くの人はそのゴールに到達できないのか?」
その問いをきっかけに、いろいろな人に会うことになり、彼らの話は、私が長い間疑問に思ってきたことを、確信に変えてくれた。それは――
好きな仕事をするには、「やりたいことを追い求めよ」は、必ずしも有益なアドバイスではない。
この考えに至った経緯はこうだ。
2009年にMIT(マサチューセッツ工科大学)でコンピュータ・サイエンスの博士号を取得していた私は、当時同校で博士研究員(ポスドク)をしていて、教授への道を順調に進んでいるつもりだった。
MITのような大学院では、教授職を目指すのが唯一の尊敬に値する道だと見なされている。うまくやれば教授職は一生モノだ。つまり、この2010年が私にとって「最初で最後の就活時期」となるはずだった。生活の糧を得るために、自分は何をしたいのかを考えるのは、まさにこのときだった。
この時期、ひょっとして私は教授になれないのではないか、という現実味を帯びた可能性が常に頭にあった。
「やりたいこと」、「“好き”を仕事に」って何だろうと考えさせられるようになった頃、私は研究職の求人についてアドバイザーと面談した。彼の最初の一言は、「就職できるなら、どこの大学でも構いませんか?」という質問だった。研究職市場は常に厳しいものだが、不景気だった2010年当時は、特に困難だったのである。
やっかいなことに、私の専門分野は近年それほど人気があるわけでもなかった。
私の在籍する博士課程を最近卒業した2人は、どちらもアジアで教授職に就くことになった。一方、同じ課程でポスドクを務めていた2人は、それぞれスイスのルガーノとカナダのウィニペグに落ち着いた。
「正直言うと、この就活はかなり厳しく、ストレスいっぱいで気が滅入ったよ」とアジアに行った1人は私に語った。
たとえ選択肢が極端に狭まるにしても、私も妻もアメリカ、それもできれば東海岸に留まりたいと思っていたので、「教授のポストを求める就活自体がムダかもしれない」という非常に現実的な問題に直面したのだ。
自分の人生をどうすべきなのか、振り出しに戻って考え直さなければならなかった。
これが、私がこのテーマに向き合うこととなった背景である。
追求する問題は、はっきりしている。
「どうすれば自分の好きなことを仕事にできるのか?」
その答えが欲しかった。