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任天堂はなぜソーシャルゲームをやらないのか(下)
ユーザーに自己効力感を促す制作方針の気骨と強み

石島照代 [ジャーナリスト]
【第25回】 2012年1月10日
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 「段階的要請法とは、小さい要求から大きい要求へ段階的に相手の応諾を得るやり方です。いきなりアイテム1個に5000円払う人はさすがにいませんから、最初は50円くらいから始める。そして次は100円、500円、1000円と上げていくわけですが、1回1000円払っちゃうと2000円払うのも抵抗がなくなる。

 もし途中で『2000円払う自分は、なんか愚かみたい』と思ったら、その前に1000円払った自分を否定することになる。それはできないから払う。この積み重ねで、だんだんと高い額に到達するわけです」(松本教授)

 つまり、ソーシャルゲームが儲かる1つの説明として、「価格差別戦略」と「段階的要請法」の存在が強く働いているという仮説が成り立つということである。そう考えれば、任天堂のゲームは前払いの定額商品であり、価格差別戦略も段階的要請法も採用していないので、収益面でソーシャルゲームに劣るのは仕方がないのかもしれない。

生活保護費からアイテム購入に2万円!
ゲーム内で「アツイ友情」を築く人々

 高額なお金を払ってしまうユーザー心理はわかったが、ユーザーは何にお金を払っているのであろうか。そのことを深く考えるきっかけとなった出来事を、紹介しよう。

 昨年の11月上旬、筆者はある業界関係者から「これは読んでおいた方がいい」と、『週刊プレイボーイ』(11月14日号、No.46)の記事を勧められた。

 「急増する『若年生活保護者』のリアル」というタイトルの記事は、「僕の大事な生活保護費がむしりとられているんですよ! 運営会社のディー・エヌ・エーを訴えてやりたい」という被生活保護者からの訴えから始まる、読み応えのある記事だった。

 この被生活保護者は、生活保護費の中から月に2万円をモバゲーの『怪盗ロワイヤル』のアイテム購入に充てて、ゲーム内コミュニティでかけがえのない「アツい友情」を築いているそうだ。

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石島照代
[ジャーナリスト]

1972年生まれ。早稲田大学教育学部教育心理学専修を経て、東京大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。1999年からゲーム業界ウォッチャーとしての活動を始める。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。「コンテンツの配信元もユーザーも、社会的にサステナブルである方法」を検討するために、ゲーム業界サイドだけでなく、ユーザー育成に関わる、教育と社会的養護(児童福祉)の視点からの取材も行う。Photo by 岡村夏林

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ゲームソフトをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わった。ゲーム機を飛び出し、“コンテンツ”のひとつとしてゲームソフトがあらゆる端末で活躍する時代の、デジタルエンターテインメントコンテンツビジネスの行方を追う。

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