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石油最大手の米エクソンモービルが、日本での事業を縮小する方針を固めた。傘下の東燃ゼネラル石油の株式50.02%のうち、最大で33%を東燃に売却することで最終調整に入った模様だ。
複数の関係者によれば、エクソンは2011年の年末にかけて着々と準備を進めていたようだ。
まず、12月5日に東燃の子会社の形態を合同会社にしていた。合同会社では出資者の責任が有限責任となり、総意があれば会社の定款を好きに変更できる。つまり投資の多寡にかかわらず自由に利益を分配できるわけで、仮にエクソンが出資を減らしても技術指導料などで稼げるようにしていた。
12月20日には東燃が、単体の純利益が1800億円になるとの上方修正を発表した。子会社間で株式を売買し、520億円増える「益出し」をしたようだ。
じつはこの1800億円というのがミソ。エクソンが東燃株を33%売却すれば、時価総額から見て約1600億円は必要。さらに東燃には約200億円の配当の維持が欠かせない。その足し算から1800億円の数字がはじき出されたといってもよいのだ。
業界に詳しい公認会計士の中澤省一郎氏は「株主に配当できる限度額を前期末から減らさずに、当期の配当と自己株取得ができる額に相当する」と言う。
もともと東燃は高配当で知られている。赤字でも毎年約200億円の配当金を支払い続け、それが株価を支えている。石油元売りで唯一、株価純資産倍率(PBR)が1倍を超えているほどだ。
つまり益出しには、自社株買いと配当維持ができる、一石二鳥のからくりがあったというわけだ。
そもそも今回の事業縮小の背景には、エクソンが日本からの“撤退”を迫られていたことがある。
というのも、石油精製の効率化を図ろうとする国の法規制により、エクソンは13年度末までに、東燃の3製油所のうち少なくとも一つを閉鎖するか、新たに500億円規模の設備投資を求められており経営の自由を奪われていたからだ。
また、世界的には原油高のため、より儲かる資源開発に注力中で、製油所やガソリンスタンドを売却する動きを加速させていた。
したがってエクソンからすれば、効率の悪い資産を売却する一方で、エッソやゼネラルなどのブランドを貸して原油供給ができたほうがよかったのだ。数年前から石油元売りや商社への売却の観測が絶えなかったのはこのためだ。
こうしたエクソン“撤退”は「業界最後の再編」という導火線に火をつける可能性が高い。
なぜなら東燃は、買収や法規制による負担を自身で背負わなければならなくなって借り入れが必要となり、実質無借金の経営が崩れる。経営陣らはエクソンからの派遣が多いため「頭脳」までも抜けてしまえば、行き着く先は他社との統合しかないというわけだ。
なおエクソンは「東燃との資本構成については検討中だが日本から撤退する計画はない」とコメントしている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)