吉原流・ボーナスや給料の考え方

前回の記事でご説明したとおり、リーマン・ショック後、吉原精工では私を含め社員全員が「月給一律30万円、ボーナスなし」としていました。
しかし「残業ゼロ」による効率化なども奏功して、業績は回復。

「結果が出たらすぐに我慢してくれた社員に返そう」
そう思っていた私は、2011年、社員への還元をスタートしました。
給料を個人の能力に応じて引き上げていったほか、全員にボーナスを年2回、100万円ずつ支給することにしたのです。

給料については、もともと「勤続年数に関係なく能力に応じて決める」という考えです。仕事が速い人、正確な人、工場全体を見て動ける人であれば、給料は高くなります。
たとえば、社員の中には、能力は非常に高く仕事での工夫も一生懸命してくれるものの、
「私は全体を見る仕事はあまり好きではない」
という人もいます。
その場合、本人の志向に合わせた仕事を任せます。全体を見る仕事ができる人よりは、少し給料は低くせざるを得ませんが、本人が望むように仕事をしてもらっているので、納得しやすいのではないかと思っています。

一方、ボーナスについては、「頑張ったのはベテラン社員も新人も一緒だから差をつけるべきではない」と考えています。
「社員たちの頑張りの結果である会社の利益のうち、半分を人数で割ってボーナスにあてる。上限は手取りで100万円」というのが基本方針です。
つまり、「ボーナスの原資とする利益が出ている限り、ボーナスは年2回、手取りで100万円ずつ支給する」仕組みです。

ただし、利益が出なければ、ボーナスはありません。
かつて経営難に陥ったとき、私は友人から借金をして社員にボーナスを出したことがありました。借りたのは、300万円。利息をつけて完済しましたが、返すのは非常に大変でした。

しかし、今思うと借金してまでボーナスを出したのは、私の見栄でした。
お金がないのに無理をすれば、社員と会社が共倒れすることにもなりかねません。ですから、ボーナスはあくまで「全員で頑張った利益の還元」という位置付けにすべきだと思っています。

「ボーナス100万円」で若手社員が育ち、定着する

「古参社員から若手までボーナス額は一律」と聞くと、「古参社員が反発するのではないか」と思う人もいるでしょう。
だからこそ、私は「ボーナス100万円」にしたのです。

2011年に社員への還元を始める以前は、ボーナスを出すときは金額を人によって変えていました。過去の実績でいえば、もっともボーナスが多い人で50万円でした。
ですから、もしも「ボーナスは一律50万円」としていたら、過去に50万円もらっていた人は「どうして全員同じなのか」と不満を感じたかもしれません。

「若手のボーナスを抑えれば、自分は80万円もらえたのではないか」
そんな考えが頭をよぎったとしても、無理はないでしょう。
しかし、もともと最高50万円だったボーナスが倍増するとなれば、他の人が同額もらうからといって文句を言う社員はいません。みんな大喜びでめでたしめでたし、というわけです。

「利益が上がればボーナスが出る」という仕組みを導入した結果、面白い効果も生まれました。会社の利益を社員が優先して考えるようになり、ベテラン社員が若手社員の能力を引き上げようとサポートする姿勢が見られるようになったのです。
全員が一丸となって会社の利益アップに頑張るようになるのですから、これほどいい仕組みはないと思います

ちなみに、私がこれまで会社を経営してきて感じるのは、ベテラン社員は少々のことで簡単に辞めたりはしないということです。もちろん、できるかぎり給料を出すなど待遇はきちんとする必要がありますが、「よそに行っても同じだけ稼ぐのは難しい」という状況なら、ちょっと不満があるくらいで退職することはありません。

配慮しなければならないのは、伸び盛りの若手です。
「若手社員が定着しない」
「せっかく素人から一人前に育てたのに、これからというときに辞めていく」
こういった悩みはいろいろな会社の経営者が口にしますが、話を聞いてみると、給料やボーナスをアップするなどの手を何も打っていないことが少なくありません。
「ほかの社員との兼ね合いもあるし、そう簡単に給料は引き上げられないよ」と言いながら、「将来は工場長にしたかったのに……」などと嘆いているのです。これでは、若手に逃げられても仕方ありません。

ベテラン社員を十分に遇しているなら、若手の待遇はどんどん引き上げ、成長したらスムーズにベテラン社員に近づけていくべきだというのが私の考えです。能力に応じてきちんと払うべきものを払ってこそ、能力のある社員が定着していきます。そしていずれは、若者だった社員がベテランとなり、会社の柱になっていくのです。

吉原精工では、入社1年目でボーナスを手取り100万円もらった社員もいます。もしかすると、親よりもボーナス額が大きかったのではないかと思います。
これなら、絶対に若手社員は辞めません。