昨年末、中国でエリート会社員の“墜落死”が大きな話題となった。その会社員は、貧しい農村出身にもかかわらず、有名大学を卒業し、約1000万円の年収を得ていたエリート会社員である。とはいえ、高額な住宅ローンや(中国では珍しい)専業主婦の妻、2人の子どもに4人の高齢者を養うなど、現代の中国で勃興する代表的な“中間層”が抱えるさまざま要因を含み、中国社会を象徴する事件だからだ。(作家 谷崎 光)
中国のネットで話題となった
男性エンジニアの墜落死
2017年12月10日、日曜日の午前中−−。
中国の大手通信企業、中興通訊(ZTE)のグループ会社、深セン中興網信科技有限公司に勤める42歳の中国人男性エンジニアが、深センの中興通訊のビルの26階から“墜落死”した。
当初、その理由はリストラを苦にした自殺と報道された。中国では自殺の報道は大して注目もされないが、この事件は中国のネットで非常に話題になった。
大手有名企業勤の開発責任者で約1000万円と伝えられた給与は、ホワイトカラーの収入が上がった現在の中国でもやはり“勝ち組”である。だが、この世代の抱える、日本人よりはるかに高額の住宅ローン、中国では珍しい専業主婦の妻、9歳の男の子と2歳の女の子、さらに彼が養う4人の老人……。
「一人で8人養うなんて、牛馬でもそんな使われ方、しないよ」(ネット民)
しかしこれは、中国の近未来図でもある。
さらに、注目されたのは彼の経歴である。
少し前までの中国では、「豊か」といえば汚職の官か起業家だけだった。しかし貧しい農村出身の青年が、経済成長の波に乗って、学問で自分の人生を変え、勤勉な“サラリーマン”として豊かになったこと。そしてその幸せも、綱渡りのような危うさをはらんでいること。
彼はまさに今の中国の、勃興する“中流層”の代表的存在だったのである。