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香山リカの「ほどほど論」のススメ
【第13回】 2012年1月16日
著者・コラム紹介バックナンバー
香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

本に書かれた「処方箋」に頼ることで
自分の知らない世界を理解する力が身につけられるか

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明快な「処方箋」が書かれた本しか売れない

 昨今、ビジネス書でよく売れるのは明快な答えが書かれている本のようです。

 成功を収めた人が、ご自身の成功体験をもとに具体的な処方箋を提示した本でないと売れない現状が続いているといいます。

 私も本を書くようになって長くなりますが、初期のころは精神科医の立場から見た社会分析が求められていました。たとえば、1988年から1989年にかけて起こった宮崎勤事件について、事件の背景を分析してほしいといった要請です。

 ところが、ある時期を境に、編集者の方からプラスアルファの注文が入ります。

 「背景分析だけでは足りないので、最後の章に『読者がどうすればいいのか』という処方箋を書き加えてください」

 処方箋が書かれていない本に対して「だからどうしろというのか」「言いっ放しで無責任だ」という批判的な意見が寄せられるようになったというのです。さらにここ数年は、現状分析さえ省略してしまう傾向に拍車がかかっています。

 「ズバリ教えます! 成功する生き方のヒント」
「私はこう生きてきたから成功しました。だから皆さんもそうしてください」

 そんな処方箋の部分だけに絞った執筆の注文が増えてきているように感じます。

 とはいえ、私は「こうしなさい」と的確な助言を言えるわけではありません。ましてや、かつて自分が考えて行動してきたことが、他の方にも本当の意味で当てはまるかどうかなどわかりません。私自身さえそれが正しかったと断言できるわけではないので、ノウハウとして提示することなどできないと考えてしまうのです。

 いまや、本を作る側も読む側も、性急に処方箋を求めすぎていないでしょうか。求められているものが処方箋だからといって、それだけを提示するだけでいいのかという疑問を抱かざるを得ません。

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香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書に『しがみつかない生き方』『親子という病』など多数。


香山リカの「ほどほど論」のススメ

好評連載「香山リカの『こころの復興』で大切なこと」が終了し、今回からテーマも一新して再開します。取り上げるのは、社会や人の考えに蔓延している「白黒」つけたがる二者択一思考です。デジタルは「0」か「1」ですが、人が営む社会の問題は、「白黒」つけにくい問題が多いはずです。しかし、いまの日本では何事も白黒つけたがる発想が散見されるのではないでしょうか。このような現象に精神科医の香山リカさんが問題提起をします。名づけて「ほどほど」論。

「香山リカの「ほどほど論」のススメ」

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