自己啓発本がヒットするのは日本とアメリカだけ?「日本初の啓発本」を書いた超有名人とは写真はイメージです Photo:PIXTA

18世紀末にアメリカで発祥した自己啓発本は、今や日本のベストセラー書籍にも欠かせない人気ジャンルとなっている。しかし、意外にも自己啓発本がヒットしている国は、発祥の地であるアメリカと日本だけだという。自己啓発本がアメリカと日本でだけ受け入れられ、支持された意外な理由とそこから見える自己啓発本の本質とは。本稿は尾崎俊介『アメリカは自己啓発本でできている ベストセラーからひもとく』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。

自己啓発本が浸透しているのは
発祥国のアメリカと日本だけ

 自己啓発本のことを調べ始めると、予期せぬ発見が色々とあるのだが、中でも私にとって意外だったのは、この文学ジャンルがアメリカ発祥であり、しかも比較的最近(18世紀末)になって生まれたものだということ。それまで私は漠然と、世界各国にそれぞれ固有の自己啓発本が大昔からあるのだとばかり思っていたのだ。

 実は発祥国たるアメリカ以外の国で自己啓発本が盛んに書かれ、かつ読まれているのは日本くらいなものなのである。イギリス連合王国、特にスコットランドには多少その伝統が残っているものの、大勢から言うとそんなものである。

 近年、韓国でも自己啓発本の出版が盛んになってきたが、その多くは「あんまり頑張るな、息抜きしながら生きろ」という趣旨のダウナー系の自己啓発本であり、人生に拍車をかけるような、自己啓発本本来のアッパー系自己啓発思想に基づくものではない。

 ではなぜこの文学ジャンルはアメリカ発祥なのか、なぜアメリカと日本においてだけ栄えるのか?

 このことを探っていくと、自己啓発思想や自己啓発本の本質というものが見えてくる。

出世したくてもできない国には
自己啓発本は生まれない

 自己啓発本とは、基本的には「出世指南書」である。もちろん「金儲け指南」という側面もあるが、社会的に出世すればそれに伴って収入も増えるのであるから、一義的には「出世指南」という側面の方が強い。「こういう風に振る舞えば、あなたも出世できますよ」と説くのが自己啓発本の基本形だと思っておけば、作業仮説として間違いはない。

 となると、そもそも自己啓発本が生まれるためには、「出世しようと思えば出世できる環境」と、その環境の中で「出世したいと思う人」が大勢いることが前提条件となる。この2つの条件が揃わなければ、いくら自己啓発本が立身出世を焚きつけたところで、それは絵に描いた餅にしかならないのだから。

 ではまず「出世しようと思えば出世できる環境」、すなわち社会の流動性について考えてみよう。

 社会が流動的であるということは、職業選択の自由が確保されているということだ。どんな身分、どんな出自であろうと、またどこに住んでいようと、男性であろうと女性であろうと、自分の就きたい職業を自由に選ぶことができ、さらに能力次第でその職業のトップの座に就ける──そういう可能性が開かれているという状況がなければ、その社会に流動性があるとは言えない。