自己啓発本の研究を始めた著者が、その沼に完全にハマるきっかけとなったのが、100年以上も前に書かれたロングセラー、ジェームズ・アレン著『「原因」と「結果」の法則』だ。この1冊との出会いを機に、「引き寄せ系自己啓発本」の源が、アレンの故郷であるイギリスではなくアメリカにあることを著者は知るのだが、いざ読んでみると意外な感想を持ったという。本稿は、尾崎俊介『アメリカは自己啓発本でできている ベストセラーからひもとく』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。
始まりは100年以上も前に
書かれた1冊の自己啓発本
自己啓発本の研究を始めたばかりの頃、私は『フランクリン自伝』や『自助論』、はたまた『カーネギー自伝』などをむさぼり読みながら、初期自己啓発本の傑作の多くが、伝記的な事実に基づきつつ「努力した者は必ず報われる」という倫理を読者に伝える健全な修身本であったことを確認していった。
だが、その一方で私にはもう1冊、どうしても読んでおきたい本があった。それはジェームズ・アレン(James Allen,1864-1912)の『「原因」と「結果」の法則』(As A Man inketh,1902)という本。
我が親友T山君が「世の中に自己啓発本は数あれど、最終的にはここに戻ってくる」と呟いた本である。彼がそこまで言うとなれば、どうしたって気になるではないか。この本もまた、フランクリンの『自伝』と同様の健全な修身本なのだろうか、それとも……?
ということで、ここでは『「原因」と「結果」の法則』とは一体全体どのような本なのか、という話から始めたいのだが、その話に入る前に、この本の著者であるジェームズ・アレンのことについて簡単にご紹介しておこう。
ジェームズ・アレンというのは、1864年に生まれ、1912年に没したイギリスの作家である。ウィキペディアによると生家は紡績業を細々と営んでいたようだが、繊維産業の不況に伴って事業が立ち行かなくなり、仕方なくジェームズの父親が1人アメリカに出稼ぎに行くことになったらしい。無論、父親としては、いずれ新天地で生計が立てられるようになれば家族を呼び寄せて、と思っていたようだが、なんと現地に着いた途端、強盗に殺されてしまう。
かくして父親を失ったジェームズは15歳にして学業を断念、そこから社会の荒波にもまれることとなったわけだが、様々な会社で事務職を務めているうちに彼は己の文才に気づく。そこで1893年にジャーナリズムに身を投じると、1901年に最初の著書となる『貧困から成り上がる』(From Poerty to Power)を上梓。そして2冊目の著書、『「原因」と「結果」の法則』がそこそこの成功を収めたことで筆一本の生活となり、生涯で19冊の本を執筆している。