ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
起業人

目が不自由な人にも自由な読書を提供
オーディオブックを日本に根づかせる
オトバンク社長 上田 渉

週刊ダイヤモンド編集部
【第173回】 2012年1月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage
オトバンク社長 上田 渉
Photo by Toshiaki Usami

 祖父への思いが、上田渉を突き動かした。

 上田が大学に入学する直前、祖父は他界した。自分の書斎を持っていたほど読書が大好きだった祖父は生前、緑内障が原因で両目を失明する。

 もちろん読書などままならず、ソファに身を沈め、静かに野球中継に聞き入る姿が頭から離れなかった。

 「目が不自由な人にも、幸せな読書を提供したい」──。

 大学在学中の2004年12月、書籍を音声化した「オーディオブック」の配信事業を展開するオトバンクを設立したのは、この原体験がきっかけだった。

 オトバンクは今、プロのナレーターがビジネス書や自己啓発書、文芸書といったベストセラーなどを朗読したコンテンツを提供するサイト「FeBe」(フィービー)を運営している。通勤中やジョギングの時間に利用するユーザーが多い。

 さらには「勉強法」としても有効だ。じつは上田には、この事業を選んだもう一つの理由がある。

 高校3年生のとき、偏差値30から東京大学を目指し、「耳で聞く」勉強法で見事合格を成し遂げたのだ。こうした自身の成功体験も、上田の原動力の一つとなっている。

80年代の苦い失敗から消極的だった出版社を
根気よく説得し続ける

 もっとも、起業した当初は苦労の連続だった。最初の壁は、音声化する前のコンテンツを保有する出版社の説得である。

 「うまくいくはずがない」

 出版社側の担当者たちは軒並み、音声化事業に否定的な意見を持っていた。

 というのも、カセットウォークマンが流行した1980年代、出版社を含めた100社もの企業が「カセットブック」事業に参入、手痛い失敗を経験していたからだ。

 だが、上田は納得できなかった。出版社側は「米国のようには根づかない」と口を揃えていた。クルマで移動中に聞くことが多いからだ、と。

 これに対し上田自身の分析はこうだ。第1に、ウォークマン自体が当時はまだ重く、また電池の持ちも悪かったこと。第2に、ラインナップが名作や語学、落語に偏っており、流行している小説などは皆無だったこと。そして第3に、そもそも文庫が300円以下の時代に、価格が3000円を超えていたことだ。

 今はMP3プレーヤーの登場で持ち運びも便利だし、ラインナップは努力次第で揃えることも可能だ。また値段は独自にヒアリング調査をした結果、書籍と同じ価格以下なら買う人は多いのでは、と思ったのだ。

 予想は的中した。「コストはこちらで負担するから作らせてほしい」という上田の熱意に最後は出版社側も根負けして了承。いまや7000タイトル以上のコンテンツを提供し、FeBeの会員数も6万人を突破した。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

週刊ダイヤモンド編集部


起業人

先達の苦難の道のりには、汗と涙に彩られた無数のドラマがある。そして、起業家達の苦闘の中には明日への成功のヒントとノウハウが凝縮されている。

「起業人」

⇒バックナンバー一覧