チャールズ・エリスの『敗者のゲーム』は原著・翻訳共に何度も改訂出版されている名著だ。「金融危機を超えて」という副題が付く原著第5版の翻訳を読んでみた(鹿毛雄二訳、日本経済新聞社刊)。
この本は、運用方針をしっかり定めて適切なリスクを取り、リスクに見合う報酬としての追加的リターン(「リスクプレミアム」と称する)の享受を目指せと述べている。エリスは内外の株式でリスクを取ることを推奨していて、その際の運用手法(運用商品)の選択肢としてインデックスファンドを選べと主張している。
全米50万部のベストセラーの著者であるエリスと肩を並べるつもりはさらさらないが、「内外の株式に対するインデックス投資」という個人投資家への推奨運用方針は、筆者も同じだ。だが、結論は一緒でも、資本市場、特に株式市場に対する見方はエリスと筆者には大きな相違点がある。
エリスは株式運用を、プレーヤーの失敗によって差がつく「敗者のゲーム」だという。彼は株式市場の主たる参加者が機関投資家であり、彼らは、アナリスト、ファンドマネジャーを含む多くの優秀な人材を揃え、情報収集やポートフォリオ管理のためのシステムインフラを有していることを強調する。彼らは株価に影響する情報をおおむね瞬時にとらえて正しく解釈し、取引を通じてこれを株価に反映させる。だから、彼らを継続的に出し抜くことは困難であり、これを目指すアクティブ運用は取引にかかるコストのせいもあって成功しないとエリスは考えているようだ。あえて平均に勝とうとする投資家はエラーを犯し、インデックス運用に負けるというのがエリスの市場観だ。彼は、過剰なほど機関投資家の力を強調する。