どうすれば外国語を10年、20年と記憶に残すことができるのか?あの中野信子氏が絶賛した話題の新刊『脳が認める外国語勉強法』には、ヒトの記憶の特性を最大限活用し、一度覚えたら単語も文法も忘れなくなる方法を紹介している。特別に一部を無料で公開する。

ネイティブのように
発音することはできるのか?

「発音を学ぶのは12歳まで」のウソ

 ネイティブの発音を身につけるにはどうすればいいのか。世間では、12歳をすぎてから外国語の完璧な発音を身につけることは不可能だとよく言われる。しかし、それが事実であるはずがない

 俳優や私を含む歌手はちゃんとやってのけている。そういう職業だからといって、ほかの人より特別賢いわけでも優れているわけでもない。発音のことを気にかけないといけないから、気にかけているだけだ。ひどいドイツ語の歌に、誰もお金を払ってはくれない。だから、正しい発音をマスターするのに時間をかける。早くから発音の学習を始めて、話すときの口の動きを正確に認識するのだ。

 ネイティブのような発音で話せるようになるかどうかは、単純に学習の順序で半分決まると思っていい。歌手は最初に発音を学習しマスターするので、発音の悪いクセが身につかない。そのおかげで、母語なまりを直す苦労がない。単語の意味を知るよりも先に、正確に真似して発する練習から始めると、舞台に上がってもオドオドせずにすむ。

 外国語をマスターしたいなら、みなこのやり方にならうべきだ。発音を後回しにすれば、いくら単語を覚えても結局は自分のものにならない。「正確な発音で話せるようになるのは12歳まで」という通説が広まったのは、発音を後回しにする人が多いからなのだろう。

 一度身についた悪癖を正すのは、本当に大変だ。でも、早くから正しい発音を身につける練習を始めれば、新しい単語に出合うたびに正しく発音しようとする。新しい単語に出合うたびに正しい発音をマスターすることに努めれば、それは生涯自分のものとなる。

 マスターしたい外国語の学習をすでに始めている人は、母語なまりの発音が身体に染みついてしまっているかもしれない。そうなると道のりは多少長くなるが、希望はあるので安心してほしい。残念ながら、身についた習慣は脳に深く刻み込まれるので、決して消えることはない。だが、その隣に新たな習慣を構築することはできる。マスターしたい外国語の音を正確に聞き分けて発音できるように耳と口を鍛え、その発音で新しい単語をマスターするのだ。

 耳と口を鍛えれば、新しい単語に出合うたびに2種類の音が聞こえるようになる。最初に身についた母語なまりの強い発音と、あとから身につけた正しい発音だ。正しい音で発音することをつねに意識していれば、新しい習慣のほうが強くなっていき、正しい発音が自然と口をついて出るようになる。

 たまには「ボンジュール」のような発音が混じるときもあるだろうが、総じて耳に聞こえ口をついて出てくるのは、流暢な発音になる。