どうすれば外国語を10年、20年と記憶に残すことができるのか?あの中野信子氏が絶賛した話題の新刊『脳が認める外国語勉強法』には、ヒトの記憶の特性を最大限活用し、一度覚えたら単語も文法も忘れなくなる方法を紹介している。特別に一部を無料で公開する。

なぜ「r」と「l」の区別は難しいのか

 音の秩序を理解し始めるのは、6ヵ月から1歳のあいだだと言われている。これについては、アメリカ人と日本人を対象にした研究がある。脳をスキャンする装置を使えば、異なる2つの音を聞き分けられているかどうかがわかるのだ。

 アメリカ人に「rock … rock … rock …rock…lock」という音声を聞かせると、「lock」を聞いた瞬間に脳波が大きく動くが、日本人に同じ音声を聞かせても変化は起きない。一方、日本人の赤ん坊に同じ音声を聞かせると、「rock」と「lock」を難なく聞き分ける。ところがこの能力は、6ヵ月から1歳になるあいだに徐々に失われていく。

 この期間にいったい何が起きているのか?赤ん坊の脳は統計データを集めている。子音「r」と「l」は直線上でつながっている音なので、どちらを意図した発音も同じ直線上のどこかに必ず区分される。

 アメリカの家庭で生まれた赤ん坊は、「r」か「l」のどちらかに限りなく近い音をたくさん聞いて育つので、直線上に「r」に近い音と「l」に近い音の2つの大きな山ができる。それを図で表すと図表3-1のようになる。

図表3-1 アメリカでは「r」と「l」は別モノ
拡大画像表示

 多くの人は子音の「r」と「l」の2つはまったく異なる音だと思っているだろう。しかし、実はそうではない。どちらの子音も、よく似た音の「集合」で成り立つ。音の集合は、育つ環境で耳にする音によって形成される。

 アメリカで育つと「r」と「l」の中間のような音はあまり耳に入ってこないので、何百というバリエーションがあるとは思わずに、すべて「r」と「l」のどちらかだと判断する。

 日本の家庭に生まれた赤ん坊の耳にも同じような音がたくさん入ってくるが、その多くは「r」と「l」の中間に位置する(図表3-2)。日本人家庭で育つ赤ん坊は、そのほとんどを「r」と「l」の中間に分類する(彼らの分類は正確だ)。

図表3-2 日本の「ら」行は「r」でも「l」でもない
拡大画像表示

 その音は、「r」とも「l」ともかなり違う。英米人が聞くと、どう処理していいのかとまどう。そしてほぼ無作為に、「r」か「l」のどちらかに分類しようとする。日本語なまりが強い人の英語を聞くと、「l」を発音するつもりが「r」になるというわけではないことがわかる。英米人にはどの子音に分類していいかわからない音なのだ。

 脳をスキャンする装置につないだ日本人に話を戻そう。先ほども述べたように、この被験者は「rock … rock … rock … rock …」という単調な流れを聞いている途中に「lock」が不意に挟まっても何の反応も示さない。

 これは、外国語をマスターするうえで危惧すべき事実だ。何の反応も示さないのは、聞き損ねたからではない。その2つの音を聞き分けることができないのだ。

 被験者となった日本人男性の脳内では、「rock」と「lock」のスペルはまったく同じなのだろう。彼が英語を学習するとなれば、自らの脳と揉めることになる。そんな状態で、はたして英語を身につけることができるのか?